【高知工科大学教授】自分自身を活かせるキャリアを築き、社会のための「事業」にしていけるように

東京大学で博士号を取得してからは、さまざまな場所で多様な経験を重ねてこられたという那須清吾先生。

那須先生が研究されている「統合マネジメントシステム」とは、地域経営や起業、行政経営問題、少子高齢化に関する問題、気候変動や水資源問題、環境エネルギー問題などを解決していくための、幅広い学術を統合した研究であるとのこと。

そして、その先に見据えるのは、自身の経験を活かした社会への貢献であると語られています。今回は、そういった多様な視点や経験を持つ那須先生にお話を伺うことができました。

高知工科大学
那須清吾先生

昭和33年、大阪府大阪市出身。昭和56年に東京大学工学部土木工学科を卒業後、平成11年東京大学で博士号(工学)を取得。民間鉄鋼会社、本州四国連絡橋公団、国土交通省などでキャリアを積み、現在在職中の高知工科大学ではバイオマス発電会社の代表取締役を8年間務めた。

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最初から研究者を目指したわけではなかった

私は現在、高知工科大学で研究をしていますが、もともと研究者を目指していたわけではありませんでした。研究者としての道を歩み始めたきっかけとして大きかったのは、現在勤めている高知工科大学の当時の学長からお誘いを受けたことでした。

そのようなお声がけをいただく前は、本州四国連絡橋公団という本州四国連絡道路を建設・管理する特殊法人や国土交通省で勤務していました。その際に、明石海峡大橋で生じた課題発生メカニズムを解明する技術報告書を作成したのですが、それが博士論文相当と認められたこともきっかけのひとつであったように思います。

研究には多角的な視点が不可欠

私が主に研究していることは、「統合マネジメントシステム研究」というものに関してです。

統合マネジメントシステムについて説明すると、気候変動適応策や社会基盤アセットマネジメント、河川防災など、分野を問わずに学術を統合し、実務と連結することで課題が発生するまでのメカニズムを解明し、その解決方法を導いていくというものです。

「分野を問わずに」とお話ししたように、この研究は個々の研究分野を深めていくだけでなく、多種多様な研究分野を統合しながら取り組まなければ、多くの問題の解決には至らないという難しい側面も持ち合わせています。ひとつの視点からではなく、さまざまな分野からの多角的な視点から考えていく必要のある研究が「統合マネジメントシステム研究」というものであると考えています。

私は大学に移ってすぐにその考え方を新たな学術分野として体系化して、文部科学省21世紀COEテーマに応募したのですが、それが採用されたことで本格的にこのテーマでの研究を開始することになりました。

20年もの時間をかけて開発が叶ったシステム

橋梁

これまでの職務経験や研究に関わる内容の広さから、さまざまな仕事に携わってきましたが、中でも特に印象的だったと感じる仕事がいくつかあります。

代表的なものを挙げるとすれば、博士論文の研究においてコンクリートが化学的に収縮しひび割れが発生するメカニズムを解明したことです。その学術分野の専門知識が無かったことから、この分野の常識を疑うところから新たな発見があったこともあって、今でも強く記憶に残っています。

他にも、学術統合で気候変動適応策の導出システムを開発したことや「橋梁アセットマネジメント」を開発したことも、同様に印象深い仕事のひとつです。

「橋梁アセットマネジメント」とは、構造物を計画的に維持・管理していくことによりその安全性を確保すると共に、維持管理のためにかかる費用などを抑えていく手法になります。点検から劣化予測、長期の修繕計画などをデジタルシステム化し、現場感覚に馴染む性能を提供します。また、世界で唯一、任意の時期に任意の修繕方法を提案できる革新的な解析システムでもあります。

特に「橋梁アセットマネジメント」の開発に関しては、20年もの時間を費やしてきたので、自分にできる社会貢献であると共に私が携わってきた仕事の中でも特別誇りに思える仕事だと感じています。

自分のためではなく、社会のための事業

これまでの経験を通して、「事業とはあくまで社会を救うものである」ということ、そして「事業とはほんの少しも自分のためのものではない」ということを学びました。

自分のための事業ではなく、社会のための事業であるということ。これは経営者として、最も大切にすべき心得であるというふうに捉えています。

また、私自身は物事を成功へ導くために昔から一貫して認識していることがあります。それは「理論の正確な理解」です。このことは私の小学生時代には算数の授業で役に立ち、高校生時代には大学受験で役に立ち、こうして社会に出て仕事をするようになってからも課題の解決に役立ってくれています。「理論の正確な理解」により短時間で成果を出せるのに、それを疎かにすることで学生は長時間の勉強で苦しみ、社会人は創造的に課題解決にたどり着かない。

自分自身の経験を活かせるキャリア選択を

若い世代の方がこれから自身のキャリア形成をしていく上で、今後伸びる分野の産業でキャリアを積んでいくことは、私個人として敢えてはお勧めしません。なぜなら、そのことに大きな意味を見出せないと考えるからです。人生という長い時間の中で、自分の年代ごとに社会において果たすべき役割は変化します。重要なのは、年代ごとの役割を担っていけるように備えておくことではないでしょうか。そのために自分の能力やスキルを磨き、自分自身を活かすことのできるキャリアを選択していくことが、いつの時代にも求められることなのです。その時の花形産業がその場であるとは限らない。

現代の日本はデジタル社会であると同時に知識社会へと変化を遂げ、明治維新以来の変革期となっています。このような社会でさらに求められることは、まずデータから重要な情報を読み解くデータサイエンス力。広く多角的な視点から分析することのできる理解力と統合力。そして、その成果を価値の創造へと繋げていくことのできるマネジメント能力などであると思われます。

そういった能力は、これからの社会においてキャリアを形成していく上での強みになることは間違いないでしょう。ですので、積極的に身につける努力をしていくべきかと思います。

私自身も、常に産学官での経験や起業経験を活かした社会への貢献を目標としています。例えば、社会人のリスキリングによる再戦力化や、子供たちの洞察力を踏まえた上での学習負担からの解放を目指すような教育ビジネスを展開することなどが現在理想としている未来像です。

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