【愛知学院大学教授】多様な視点と視野の広さで豊かなキャリア形成を

西海 学先生は、現在愛知学院大学で財務会計、財務管理を専門に教鞭を取っておられます。

若い世代が経営学・経済学の分野でキャリアを積むためには、どのような点を重視すればよいのでしょうか。

西海先生のご経験やキャリアを踏まえてお話をお伺いしました。

愛知学院大学
経営学部教授 西海学先生

2004年に横浜国立大学大学院国際社会科学研究科博士課程修了、博士号を取得。
以後、福井工業大学専任講師、愛知学院大学経営学部准教授、University of Victoria Visiting Scholar客員研究員を務める。
2016年4月、愛知学院大学経営学部教授に就任。

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二度の路線変更の末に研究の道へ

私はもともとクラシックの作曲家を目指していたのですが、公認会計士になろうと思って路線変更し、法政大学経済学部に入りました。

大学ではミクロ経済学を専攻していたのですが、公認会計士試験の受験勉強の中で、当時東大の教授でいらっしゃった醍醐聰先生、斎藤静樹先生、そして私の師でもある横浜国大の濱本道正先生の論文を読む機会に恵まれました。会計情報を経済的に分析することに面白さを感じ、二度目の路線変更をして大学院に進学した次第です。

公認会計士試験のために勉強したおかげで、会計情報の構造をある程度理解していたことが、研究の道に進む後押しになりました。その後は、企業が開示する会計情報が情報の非対称性の緩和にどれだけ有用であるかについて研究しています。

多様な見方が結果を豊かにすると再確認したIFRS研究プロジェクト

私自身のキャリアの中では、科学研究費助成事業の基盤(A)や国際研究学会のスタディグループに参加した経験が印象に強く残っています。様々な研究者と一緒に国際会計基準(IFRS)に関する研究プロジェクトを行い、その中で私はカナダやオランダの調査を担当しました。

カナダの調査では、多様な観点から見ることが大きな結果をもたらす可能性があることを実感できました。日本から見えるものや、会計の理論から見えるものはほんのわずかに過ぎないことがよくわかりました。またIFRS研究で想定していた仮説では対応しきれないことも実感できました。

博士論文では「暖簾(企業の超過収益力)」に関する研究を行い、それに関連する論文を数本書いています。周りの研究者によると、私の暖簾に関する論文はそれなりに引用されているそうです。論文が引用されて役に立っている事実は、その分野の研究が発展に貢献できているだろうと受けとめています。

大学教員として学生の視点を重視した仕事をしたい

大学教員としては、学生が大学に何を期待しているか、大学もしくは経営学部への進学目的は何か、どのように大学や経営学が見ているかといったことの変化、違いを客観的に見て、反応できるようにしておくことを心がけています。

教員という立場は、自分の価値観や経験則を上から押し込みがちです。しかし、私が大学に進学した30年前の学生と今の世代の学生では、大学進学の目的は大きく違います。そのため、今の学生が置かれている環境などを考慮しつつ、学生と同じ視点を持って仕事をするようにしています。

会計・税務の知識だけに拘らない視野の広さを身につけることが大切

会計の分野でキャリアを積みたいなら、当然のことですが難易度の高い資格を持っていた方がいいでしょう。特に公認会計士や税理士資格の取得は、キャリア形成に役立つでしょう。どちらも受験のハードルは低くなり、コストと時間さえかければチャレンジしやすい環境になっていると思います。

分析するだけならば、人間よりもAIにやってもらった方が迅速かつ正確で、分析力も高いです。しかし、相手との信頼や人間性との関わり、それに伴う迷いや不安といったAIが解決しづらいことがむしろ明確化しています。税務や会計の分野でキャリアを積む人が今後関わっていく主な内容は、「いかに個別の事案での経済的合理性を最大化できるか」ということになるでしょう。

つまり、今後は経営者や経済人の多様な経済観念や価値観に関わっていくことを想定する必要があると思います。会計・税務の原理原則は大切ですが、それに執着しないように、多くの事例を見て社会的厚生を最大化できる視野の広さを会得しておくといいと思います。

若い世代が豊かな未来を描けるよう知識面からサポート

労働環境は、ここ10年ほどで改善してきていると思います。有給も取れるようになり、サービス残業を強いられるようなことも徐々に減ってきました。しかし、給与水準がいまだに低く、私たちアラフィフが20代だった約30年前と大差ないということは、大きな問題だと思います。

また、私が音楽をやってきたので実感しているのですが、日本は文化的水準があまりにも低すぎる状況が続いています。バブルの頃は経済力で補えていたかもしれませんが、近年は経済的にも精神的にも、相対的に見てあまり豊かな国でなくなってきてしまっているのではないでしょうか。

若い世代の人たちが、以前より徐々に将来に希望を持てなくなってきているのを感じます。若い学生たちがより豊かな未来を期待できるように、経営学を通じて知識面からサポートできればと思っています。

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