子育て世帯包括支援センターとして、各種子育て支援事業やセミナーを行っている、乳幼児子育てサポート協会の代表、行本充子様にお話を伺いました。
乳幼児子育てサポート協会
代表
行本充子さん
教育やファッション業界での経験を経て、2011年に兵庫県尼崎市でベビーマッサージ教室を開業。2013年には乳幼児子育てサポート協会を設立し、子育て講座や企業向け研修で延べ1万組以上の親子と関わる。2017年に「産前産後トータルケアネットワーク」を立ち上げ、産後うつゼロを目指し政策提言や地域連携に注力している。
産後うつを防ぐ! 乳幼児子育てサポート協会の挑戦と実績
乳幼児子育てサポート協会では「産後うつを未然に防ぐ」のミッションのもと、子育て世代を対象にベビーマッサージ教室や子育て講座を行っています。
乳幼児子育てサポート協会の歴史は長く、2011年に、私が、自宅の一室でベビーマッサージ教室を始めたことに端を発しています。
セミナーや講座などの、直接の支援することはもちろん、子育てに関する調査や、各種省庁への提言、子育て支援に携わる人材の育成など、子育て世帯に対して、包括的な支援を行っています。
活動の原体験:孤独な育児時代
私には、現在中学2年生になる息子がいるのですが、その妊娠・出産の過程で感じた孤独は、今でも忘れることができません。
というのも当時の私は、夫の仕事に帯同して、家族はおろか友人さえひとりもいない土地で暮らしていました。
そのような環境での育児は、決して簡単なものではなく、頼れる人が誰もいない状況に心が疲れ果ててしまったのです。
時には、自分の腕の中で眠る子供に対して「この子を落とせば楽になれるのではないか」などと思ってしまうことも少なくありませんでした。
産後うつ脱却のイベントが「産後うつを未然に防ぐ」活動へ
私がそのような状況から脱却することができたのは、尼崎市が子育て世帯向けに実施していたイベントのおかげです。
このイベントを通じて、私は自分と似た悩みを持つママ友と出会い、「自分はひとりではない」ということに気づくことができました。
これらの経験から私は「自分も同じように辛い思いをしているママさんを助けることができないだろうか?」と考えるようになりました。
そこで、始めたのが、先述のベビーマッサージ教室です。
2年ほど、教室を営んだのち、もっと実情に基づいた活動をしたいと思い、当時私が運営していたブログを見て賛同してくださった方々と共に、任意団体「乳幼児子育てサポート協会」を立ち上げました。
現在は「産後うつを未然に防ぐ」というミッションに取り組んでいますが、これには、社会の意識や風潮を変えることが欠かせません。
弊協会ではそのために、子育てにまつわる実態調査にも取り組んでいます。
子育て支援は進化しても「心の孤独」は変わらない? 社会の意識改革が必要な理由
子育ての孤独は、個人の問題だけではなく社会全体で解決していく問題
近年、子育て世帯に対する支援策の数や、それに割かれる予算額は増加の一途を辿っています。
つまり、子育て支援の形は非常に充実してきているのです。
にもかかわらず、母親が出産や育児の家庭で感じる精神的な負担はほぼ変わっていないという傾向があります。
というのも、令和3年に株式会社インテージリサーチが行った調査の中で子育てに関して不安を感じる女性は7割を超えていました。(※1)
弊協会の実態調査でも、「孤独感を感じる」「虐待してしまうかもしれないという危機感を感じる」といった回答を多くいただいています。
そのため、社会全体で「ママやパパの味方だよ」「みんなで見守っているよ」と伝えていくことが大切だと考えています。
つまり、社会そのものを変えていく必要があるのです。
(※1)
令和2年度「家庭教育の総合的推進に関する調査研究~家庭教育支援の充実に向けた保護者の意識に関する実態把握調査~」
親の自己肯定感を高めることも同様に重要
親が自分に対して否定的な目を向け続けることは、子どもにも影響を及ぼすからです。
孤独感の傾向には、現代において、子育ての価値があまりにも軽んじられていることも関係していると考えられます。
例えば、厚生労働省の資料によると、保育士の1ヶ月あたりの賃金の平均は「27.2万円」とされています(※2)。
これは、社会が子育ての価値を軽視していることの表れだと思います。
これを覆すには、社会全体が「子育ては未来を作る最も尊い仕事である」という意識を持つことが必要であると言えるでしょう。
弊協会では、こうした意識を変えるため、政策提言も行っています。
浜松や糸島などでは、実際に弊協会が提言した政策が採用されました。
また、国会の質問の中で、弊協会の実態調査のデータが使われたこともあります。
弊団体では、これからも、子育て世帯のため、子どものための働きかけを続けていこうと思います。
(※2)
キャリアから専業主婦へ、そして産後うつ:行本 充子代表の道程
現在のビジネスの関心・素養に繋がったボランティアとアルバイト
私は東京理科大学を中退しています。
というのも、当時の私においては、現役で4年生の大学に入学しなければならないという強い意識があったものの、大学で学ぶ内容に関心があったかというと、そうではありませんでした。
どちらかというと、子どもたちのために役立つことをしたいという気持ちの方が強かったのです。
YMCAで学習障害(LD)を持つ子どもたちのボランティアをしたことで、この思いは一層強まりました。
また、その頃の私は、YMCAでのボランティアと並行して、マクドナルドでのアルバイトもしていました。
当時、私が勤務していた店舗は県内でも特に売上が高い店舗で、私はそこでマネジメントに関わる業務を担っていました。
ここで培ったビジネスへの関心や素養は、現在においても非常に役立っています。
バリキャリとして仕事に打ち込んだ塾講師・アパレル企業時代
その後、学歴にこだわらず採用を行っている小中学生を対象とした塾講師として勤務を始めました。
業務にはやりがいがありましたが、会社が倒産したため、辞職を余儀なくされました。
その後、渋谷のとあるアパレルブランドでアルバイトをしていたところ、旗艦店の店長に抜擢されました。
そこでは、ビジネス感覚をさらに磨くことができましたが、そのブランドでは不正が横行しており、問題意識を感じたのと、「この会社でやりたいことはやり尽くした」と感じていました。
このことから、そこのブランドを離れ、海外での買い付けができるアパレル企業に転職しました。
バリキャリから専業主婦になるも産後うつに
ある程度仕事が軌道に乗った時期に、夫と出会い、結婚したのですが、ここから私の道が少しずつ変わっていったように思います。
というのも、それまでの私はいわゆる「バリキャリ」として仕事に打ち込んできましたが、結婚を機に専業主婦になろうとしたのです。
当時は「主婦はこうあるべきだ」という固定観念が強く、当時の私はというと、それを内面化し、そのようになれない自分に苛立ったり、焦ったりしていました。
これが産後うつの一因となったことは、想像に難くないかと思います。
これを脱却するには、視野を広く持つことが欠かせないのですが、追い詰められている時は、人からのアドバイスを素直に受け入れるのは難しいもので、当時の夫からの「仕事を再開した方がいいのではないか」という助言すら、受け入れることができませんでした。
産後うつの一因:子育ての正解を求めすぎる
また、私が産後うつに陥ったもうひとつの理由として、子育てに「正解」がないことが挙げられます。
私はどちらかというと、目標に向かって論理的に努力するタイプなのですが、子育てではその方法が通用しないことが多いのです。
近年では、子育てに関する情報やノウハウが簡単に手に入るようになりましたが、これらが当てはまらない子どもも少なくありません。
実際、私の息子もそうでした。このことがさらに私を困らせました。
かといって、子育ての経験が全くの無駄だった・無益なものだったとは決して思いません。
子育てによって、私は「自分は正しい」という考えにとらわれることが少なくなりましたし、さまざまな立場の方の気持ちを慮れるようになりました。
私にとって、子どもは私自身を大きく成長させてくれる存在だったのです。他の女性にも、同じことが言えるのではないかと思います。
育休・産休後のキャリアの鍵は「資格」
ここからは現在、産休・育休をとっている方が、今後どのようにキャリアを積んでいくべきかについて、乳幼児子育てサポート協会に所属している方の例を挙げてご紹介します。
ベビーマッサージの資格取得を副業収入やキャリアアップに生かした例
例えば、ベビーマッサージの資格を活かして、講師としてセミナーや教室を開催している方がいらっしゃいます。
この働き方の強みは、家庭の事情やお子さんの年齢に合わせて、働き方を選べるという点です。
もう一つの例として、パートなどである程度安定した収入を得ながら、ダブルワークとして教室を開いたり、講師として活動するという形もあります。
この場合も、それぞれの方の目標や家庭の事情に合わせて働き方を柔軟に調整できます。
また、ベビーマッサージの資格は、働く場所を選ぶ際にも役立つものだと思われます。
実際、これまで乳幼児子育てサポート協会と関わった方の中には、ベビーマッサージの資格を活かして、保健師や保育士、看護師として働くようになった方もいらっしゃいます。
学びが育休・産休中の焦りを和らげる
育休や産休中は、自分は何もできていないという焦りを感じることが多いものです(そしてこれが、産後うつの要因にもなり得ます)。
しかし、資格取得に向けて学びを進めることは、そのような焦りを軽減するのに大いに役立ちます。
また、育児を通じて身につけられるスキルは、他にもあります。
例えば、育児というのは想定外の出来事の連続ですから、想定外のトラブルに、臨機応変に対応する、対応力が築くでしょう。
また、人によっては、セルフマネジメントに関する能力が身についている人もいらっしゃいます。
これらの能力を適切に活用することで、復職後により自分に合った職業・ポジションを獲得できるでしょう。
復職における不安を乗り越えて、新たなキャリアへ : 不安を乗り越える方法
しかし中には、復職に対して、著しい不安をお持ちの方もいらっしゃるかと思います。
復職に対する不安は、大きく三つに分けることができます。
- 子どもと一緒にいてあげられないことに対する罪悪感
- 復職後に会社や周りの人に迷惑をかけてしまうのではないか、という罪悪感や不安
- 家事と仕事と子育て、このトリプルワークをこなせるのかという不安
子どもと一緒にいてあげられないことに対する罪悪感
このような罪悪感を抱えている方は、自分が働きに出ることで子どもが愛情不足に陥ったり、発達に影響が出てしまうことを心配されているのだと思います。
しかし、保育園や幼稚園といった施設では、専門の教育を受けたプロにお子さんを見ていただけること、そして同年代の子どもたちとの関わりを通じて発達を促すことができるというメリットがあります。
もし心配されている場合は、子どもと一緒に過ごす時間をある程度確保することをお勧めします。
たとえば、仕事がある日でも子どもと一緒にお風呂に入ったり、ご飯を一緒に食べたりすることで、愛情不足に陥る心配はまずないでしょう。
復職後に会社や周りの人に迷惑をかけてしまうのではないか、という罪悪感や不安
どうしても周囲に迷惑をかけてしまう場面が出てくるかもしれません。
しかし、その代わりに、自分が出社した時に何ができるのかを考え、その人たちが困っている時には積極的に支えることを意識し、実行することで、不安や罪悪感を軽減できるのではないかと思います。
家事と仕事と子育て、このトリプルワークをこなせるのかという不安
トリプルワークは確かに簡単なことではありません。
ですので、まずは完璧主義を手放し、自分の心と体を守ることを第一に考えてください。
たとえば、料理はお惣菜や冷凍食品を利用する、いわゆる「中食」を活用したり、洗濯物はすべて乾燥機に任せたりと、今までと同じように家事をこなそうとは思わないでください。
それは無理です。
逆に、どうやったら仕事と子育てを両立できるかを考え、家事で省略できる部分は何かを見つけてほしいと思います。