命と向き合い続けた先に見えた「その人だけの選択」

今回はミネルバクリニックの仲田院長へ、ご自身のキャリアや、キャリアに迷う医療業界の方へのアドバイスを伺いました。

仲田院長

ミネルバクリニック院長
仲田洋美さん

高知医科大学医学部卒業後、血液・呼吸器内科医、腫瘍内科医を経て、がん薬物療法専門医や臨床遺伝専門医の資格を取得。

2015年にミネルバクリニックを開院し、遺伝子診療やNIPTなど先進医療を幅広く提供している。

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最善の医療は“一律”ではない。信頼と対話が導く“その人だけの選択”

ー患者さんと信頼関係を築くために意識していることはありますか?

基本的には、患者さんご自身に「どうしたいか」を決めていただいたうえで、その意向に沿った検査や治療を行うようにしています。

私は医師の役割は、ふたつあると考えています。ひとつは、患者さんの怪我や病気を治すこと。もうひとつは、その人がその人らしく、自分の人生を歩めるよう、サポートを実施すること。

キャリアの浅い頃は、医学的に「最善」とされる選択肢こそが、患者さんにとっても最良だと信じていました。しかし、がん薬物療法専門医として、余命が限られた患者さんと向き合う中で、たとえ同じ病気であっても、その方の価値観やライフステージによって「最善のかたち」は異なることを、痛感するようになりました。

そのため当院では、患者さんが自分にとって本当に「最適な方法」を選択できるよう、すべての選択肢について、そのリスクとベネフィットを丁寧にご説明しています。

エビデンスに基づいた情報や多角的なデータを提供することで、患者さん一人ひとりが「本物のケア」を受けられるよう心がけていますね。

ー 日々の診療の中で本物のケアを実践するために意識していることは?

「目の前の患者さんと向き合い、その価値観を理解すること」を、私たちは何より大切にしています。

繰り返しになりますが、当院では、患者さんにとっての「最善のケア」と「最適な選択肢」を提供することを目指しています。しかしながら、医療者にとっての「最善」と、患者さんご本人にとっての「最善」は、必ずしも一致するとは限りません。

たとえば当院では、出生前診断を含む各種の遺伝子検査を提供しています。しかし実際には、「この検査を受けるべきかどうか」と不安を抱いて来院される方もいれば、ご本人は乗り気ではないものの、ご家族に勧められて受診される方もいらっしゃいます。

こうした個々の背景や思いを無視し、一方的に検査を勧めることが、本当に患者さんにとっての「最善」と言えるでしょうか。むしろ、その方が本当に検査を望んでいるのかを丁寧に確認し、検査内容や意味をしっかりご理解いただくことで、その方にとっての「最善の選択」に近づくことができると考えています。

ただし、それを実現するためには、まずは患者さんの本心を知ることが必要不可欠です。そのために、患者さんと向き合い、それが可能になるだけの信頼関係を構築することが、最善の医療の出発点であると、私は考えています。


文科省に電話で直談判、子育てしながら医師免許取得

— 仲田院長は、3人のお子さまを育てながら、専門資格を取得されたと伺いました。大変なご状況の中、どのように学びの時間を確保し、乗り越えてこられたのでしょうか。

私は学生時代に第一子を出産しました。そのため、医師免許の取得を目指して大学で学びながら、育児との両立を図ることになりました。しかし、それは決して容易なことではありませんでした。

というのも、当時は国立大学の医学部であっても、保育所がまだ開所していない早朝の時間から授業が始まることがあったのです。そのくせ、朝早い実習に託児所が開いていないから預けられなくて参加できない、と申し出た私に対して単位を出さないと言う嫌がらせをした教授が2人いました。結果的には教授会でも問題となっていましたが、単位を出す出さないは教授の権限なので、教授会が紛糾してもどうしようもありません。

そこで、何とかこれをブレイクスルーするにはどうしたらいいのかと考え、文科省に直接「学則にない時間に実習を強要するのはいかがなものか」と抗議の電話をかけました。文部省が動いてくださったみたいで、結果的に単位を取得できました。

育児に対する無理解が蔓延しているアカデミアの中で、幼子を抱えながら無事に医師免許を取得できたのは、奇跡にも近いと感じています。

ー 医師免許を取得されるまでには、本当に大変なご苦労があったのですね

そうですね。私が大学を卒業する頃に男女雇用機会均等法が成立し、女性の社会進出が謳われるようになりました。しかしその一方で、働く女性に対しては、まだ根強い偏見が残っていましたね。これは、医師の世界においても例外ではありません。

当時、医療業界においても女性の医師に対する根強い差別意識があり、中には「女性の医師が増えると、日当直が回らなくなる」と言う方もいました。

私は、自分のせいで女医はダメだと言われたくないという気持ちで、医師になってから必死に仕事に打ち込むようになりましたね。

そのような中で、子どもたちから「ママはどうして、他のママと違うの?」という辛辣な質問を浴びせられたこともあります。私は、そんな子どもたちに「医師は固有財産であり、インフラの一部です。私は、あなたたちだけのものではありません」と言い聞かせる一方で、絶えず罪悪感を覚えていました。

しかし、子どもというのはかならず育ち、親の元を巣立っていきます。いつか必ず、親の元を離れていくのだったら、母親としてではなく、私の人生を生きさせて欲しい。私のキャリアは、そのような葛藤と共にあったと言っても過言ではないでしょう。

“救えない命”と向き合って──私ががん薬物療法専門医から遺伝子医療へ進んだ理由

ーその後、がんの薬物療法専門医として働かれていたんですよね

そうです。大学を卒業後、がんを罹患した患者さんと向き合うようになりました。がん薬物療法専門医を取得したのは、医師になった15年後です。

しかし、この日々は、私の価値観を180度転換してしまったのです。

最初のころの私は患者さんたちの命を守るため・ひとりでも多くの人の命を救うために、医師を続けて目指してきました。しかし、私のもとに訪れるのは、術後の再発を防ぐ治療の患者さん以外は、助かる見込みのない患者さんたちが圧倒的多数でした。

自分が今、どれだけ手を尽くしても、この人はいつか必ず亡くなってしまう。この事実は、私の精神、ないしは、医師としてのアイデンティティを大きく動揺させるだけのものでした。

そうした経験を経て、自ずと「この人たちのために、私は何ができるだろうか?」と考えるようになりましたね。

ー医師としての価値観が変わると、患者さん達への接し方はどのように変わりましたか?

まず意識したのは、患者さんたちが限られた時間を自分らしく過ごせるように支援することです。

例えば、癌治療の中には、いわゆる末期治療と呼ばれるものがあります。ここでは、最低限の苦痛を取り除くことはしますが、癌細胞を取り除くための治療は一切行いません。

一見すると、治療をしないという選択は、医師の立場からすると「最善」には見えないかもしれません。医学的な指標だけを基準にすれば、病状を少しでも改善させることが、当然の目標とされるからです。

しかし、患者さん一人ひとりの立場に立ってみると、話は変わってきます。

例えば、ある患者さんは、抗がん剤の副作用に苦しみながら、治療を続け、延命するよりも、好きな食事をとり、好きな場所で、好きな人たちと穏やかな時間を過ごしたいとお望みかもしれませんよね。

このように、医師が考える「最善」と、その人にとっての「最善」とは、必ずしも一致しません。だからこそ私たちは、医療の専門家としての立場だけで判断せず、目の前の一人ひとりの声に丁寧に耳を傾け、その人が納得のいく選択をするための支援を続けていました。「癌になったのは不幸だったけれど、先生に看取ってもらえてよかった」と言ってもらえるように。

終末期を幸せに過ごすことは、いつか「遺族」になってしまう家族の苦痛を必ず減らすと信じて頑張りました。

そんな中、私が出会ったのは、遺伝性腫瘍の患者さんたちでした。がん専門医がきちんと遺伝性腫瘍を診療できるようにならないといけないと思い、遺伝専門医の修練を始めました。そして、それまでと違う景色がそこに広がっていました。

私はそれまで消化器がんしか診療しないとか言う風に限定しない、臓器横断的ながんの診療をライフワークにしていました。しかし、神経難病とかいろんな疾患が遺伝性疾患として存在しています。どちらが重くてつらいとか決められない。がんはたくさんの医師が診療しているけど、遺伝性疾患を臓器横断的に診療していこう、という考えになっていきました。

検査の“その先”まで支える医療──最新のNIPT導入に込めた想い

— ミネルバクリニックでは、最新のNIPT(新型出生前診断)を導入されていると伺いました。その導入に至った背景や想いについて、お聞かせいただけますか。

まず、皆さんはNIPTとはどのような検査かをご存知でしょうか。NIPT(新型出生前診断)は、妊婦さんの血液に含まれる胎児のDNA断片を分析することで、胎児に染色体異常があるかどうかを調べる検査です。こうした検査をあらかじめ行うことで、出産前に一定の情報を得ることが可能になります。

現在、NIPTは主に産婦人科医によって実施されていますが、私は、こうした高度で繊細な検査こそ、しっかりとした知識と経験を持つ専門医が担うべきだと考えています。なぜなら、検査そのものだけでなく、その結果がもたらす意味や、それにどう向き合うかといった点について、十分な説明と支援が求められるからです。

そのため、当院では、遺伝医療の専門的な知識を持つ医師が、検査前後のカウンセリングを丁寧に行い、検査結果の解釈やその意味について十分にご説明しています。検査そのものだけでなく、その後の選択肢まで見据えたサポート体制を整えることで、ご本人とご家族が納得のいく決断ができるよう支援しています。

あくまでも患者さんにとっていいことを無理のない範囲でどんどん取り入れていく、という姿勢を貫いていますので、2022年11月にはNIPT前に当日の赤ちゃんの状態を確認できるよう4Dエコーを導入しました。当日、心拍が確認できない患者さんがいるためです。2025年6月より、産婦人科併設の上、NIPTで陽性になったかたの羊水・絨毛検査(確定検査)をできるようにしました。

患者のための医療といっても実現するのは大変です。しかし、一歩一歩、順番に積み重ねていきたいと思います。

キャリアに迷う医療人へアドバイス

— ミネルバクリニックでは、医療従事者の働き方改革にどのように取り組んでおられますか?特に、ワークライフバランスの確保に向けた具体的な施策があれば、ぜひお聞かせください。

当院に限らず、医療業界全体として、近年はワーク・ライフ・バランスの実現に向けた支援が、以前よりも手厚くなってきているように感じます。当院でもかつては、フレックスタイム制度に近い仕組みを導入し、従業員一人ひとりが働き方を柔軟に選べるよう支援していました。

ただし、適切なワーク・ライフ・バランスのかたちは、人それぞれ異なります。ある人にとっては、仕事に集中できる環境が最も充実していると感じられるかもしれませんし、別の人にとっては、家庭や趣味など私生活を大切にすることが優先されるかもしれません。

大切なのは、「これが正しい働き方だ」と一律に価値観を押し付けるのではなく、それぞれが自分にとって無理のない、納得のいくバランスを見つけることではないでしょうか。

— 近年、医療従事者を対象とした転職支援サービスが増加していますが、こうした動きについて、仲田先生はどのようにお考えでしょうか。

当院でも、転職支援サービスを通じて、当院での勤務を希望される方がいらっしゃいます。実は私自身も、かつて似たようなサービスを利用し、自分に合った職場を模索していた時期がありました。

経験則としてお伝えすると、「急募」と記載されている求人には注意が必要です。こうした求人は、離職率が高いなど、何らかの理由で人手が不足している可能性があるため、慎重に見極めることをおすすめします。また、過去にその医療機関で働いていた医師たちの評価や評判を確認しておくのも、有益な判断材料になります。普段から複数の求人サイトや口コミを定期的にチェックしておくことも、情報収集の一環として効果的です。

さらに、学生時代など比較的時間に余裕があるうちに、アルバイトなどを通じてさまざまな職場や業界に触れておくことも、将来の進路選択に役立つ社会勉強となるでしょう。

— 反対に、人材確保でお悩みの医療従事者の方に向けて、何かアドバイスなどはありませんか。

当院は、人手不足が深刻化する現代においても、ありがたいことに良い人材に恵まれています。幸いなことに、かつて患者さんとして当院を訪れた方が、当院の姿勢に共感し、退院後に自然とお手伝いを申し出てくださるケースが少なくありません。そのほかにも、「このクリニックをより良くしたい」と思ってくださる、信頼のおける方々に業務を任せられていることは、大きな支えとなっています。日々、素晴らしい仲間に囲まれて仕事ができていることに、心から感謝しています。

これは、私が掲げてきたビジョンやミッションが、少しずつ形になってきた結果なのかもしれません。「最高のケアを提供する」という信念のもと、目の前の患者さんひとりひとりに真摯に向き合ってきた、その姿勢が、誰かの心に届き、共感や信頼を生んだのだと思います。

現在、人材の確保にお困りの方においては、そのようなビジョンを明確にするとともに、これに妥協しない姿勢を持つことをお勧めいたします。

出生前診断(NIPT)の活用について(PR)

ー最後に、読者の方へメッセージをお願いします

当院では、一般的な大学病院と比較して約1.6倍にあたる検出力がある出生前検査を取り扱っております。オンラインによる検査にも対応しており、全国どこからでも受診が可能です。出生前診断の対象となる疾患と言うのは、生きていくうえで大変な障害となる疾患です。

もちろん、すべての疾患や異常を検出できるわけではありませんが、一人の命を授かるということには、親として大きな責任が伴います。そのため、「できる限りの準備をしておきたい」「後悔のない選択をしたい」という思いから、検査を希望される方が多くいらっしゃいます。

出生前検査は、生涯のうちに何度も受けるようなものではありません。だからこそ、将来の安心につながる一歩として、しっかりと情報を得て判断することが大切です。ご不安な点があれば、どうぞお気軽にご相談ください。

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