今回は、メディア業界で長年の経験を持つ種田慶郎さんに、20代・30代の若手社会人がどのようにキャリアを築くべきかについてお話を伺いました。将来を見据えたキャリア形成の考え方と、その実現方法について、具体的なアドバイスをご紹介します。

株式会社セグレト・パートナーズ
代表
種田慶郎さん
1965年生まれ。早稲田大学 政治経済学部卒業後、1987年にフジテレビジョンに入社し、番組制作から新規事業開発まで幅広く経験。主にイベント、コンサート、インターネット関連の新規事業を担当。2000年頃にはiモードの登場に合わせてファンクラブサイトの立ち上げにも携わる。
現在では、株式会社セグレト・パートナーズの代表取締役社長でありつつも、複数社で経営層として参画している。
積極的な姿勢が鍵! 種田さんのキャリアから社内で自由に働く方法を聞く
ーまずは、種田さんが社会人になったときのことを教えてください
僕が入社したのはバブル真っ只中。当時の就職市場は完全な売り手市場で、大学を卒業すれば多くの企業から「うちに来ないか」と声をかけられる時代。いわゆる“良い会社”に入るのが当たり前で、それ以外の選択肢はほとんど考えられていませんでしたね。
そんな中、たまたまメディアやエンタメが好きだった僕は、テレビ局を受けたところ運よく合格。とはいえ、キャリアプランを深く考えることもなく、独立しようという発想もありませんでした。ただ、「定年までこの会社で働くのかな」「できるだけ出世したいな」と漠然と考えながら、日々忙しく仕事をしていましたね。
幸い、好きな分野の会社に入り、それなりに貢献できる仕事もできたので、「学生時代とは違う生きがいを見つけられたな」と感じながら働いていたと思います。
ーそのような日々がどのくらい続きましたか?
40歳を過ぎるくらいまでですね。
ただ良かったのは、テレビ局にいながら番組制作以外でもさまざまな業務に関われたことです。1つの業務に専念するというより、常に複数のことを並行して進めていたので、「飽きたから別のことをやりたい」と思うこともなかったんですよね。
結果的に、辞めるという選択肢を考えることもなく、気づけば40代まで続けていました。
ーやりたい仕事ができないと悩んでいる若者も多いと思います。そうした人たちに向けて、なにかアドバイスはありますか?
まず、やりたいことがあるなら、積極的に手をあげるといいですね。
大企業ではリスクを取って何かをやりたいという人は少数派です。そのため、「やりたい」と言い続ければ、意外と任せてもらえることが多いんですよね。
減点を恐れて指示に従うだけではなく、多少「生意気」と思われても構わないので、自分の意見を発信することが重要だと思います。
実際に、今では多くの企業がCVC事業(事業会社によるスタートアップ投資)を行ったり、若手をスタートアップに派遣したりするなど、新しい挑戦を後押しする動きを強めています。
今はむしろ、「跳ね返り」気質の人にとってチャンスの時代だと思いますね。
ー積極的に手をあげていくのが大事なんですね
そうです。ただ、企業にはさまざまな人がいるため、「誰に話を持ちかけるか」は慎重に考える必要があります。
信頼できる上司や、自分のアイデアに共感してくれそうな人に相談しながら、組織内の人間関係を理解した上で動くことが大切です。
適切なアプローチをすれば、意外と自由にやりたいことを実現できる可能性は高いと思いますよ。
元フジテレビ社員に聞く!人脈づくりの極意

ー「人脈を増やす方法が分からない」といった声をよく聞きますが、具体的にどのようにすればよいのでしょうか?
まずは、「頑張っている感」を意識的に出すことが大切ですね。
また、社内にとどまらず、コミュニティやイベントに参加してネットワークを広げることも重要です。
そうした活動を通じて、自分ならではの強みや独自性を育てていくと、より意見が通りやすくなりますよ。
ー社外で得た知見を、社内に還元するイメージですね
その通りです。知識や知見はもちろん、人脈も重要ですね。
僕は、人とのつながりを仕事に活かすために、名刺交換だけで終わらせず、相手と本当に親しくなれるように意識しています。
一度会ったとしても相手の記憶に残らなければ、つながりを生かせませんよね。だからこそ、人脈作りに貪欲なくらいがちょうどよいと思っています。
例えば、「名刺交換後に少しわざとらしいくらいでも構わないのでメッセージを送る」「共通の知人を通じて再会の機会を作る」など、意識的に関係を深める工夫をしていますね。
ー 相手に自分のことを覚えてもらえることが重要なのですね
そうですね。また、人付き合いを「損得勘定」だけで考えないことも大切です。
今は仕事やキャリアに直接関係がなくても、「この人は面白い」と感じた相手や近い分野の人とつながることで、新たな出会いやチャンスが生まれることもあります。
僕自身、仕事とは直接関わらないものの、知識が豊富で面白い人との縁を通じて人脈が広がり、結果的に助けられた経験が何度もあります。
短期的な損得にとらわれず、中長期的な視点で人脈を築くことが重要ですね。
ー関係を深めるために役立つスキルや、具体的な方法はありますか?
ありますね。僕の場合、お酒を飲みに行って仲良くなることが多いです。
今だと、サウナやポーカーも良いですし、定番ですがゴルフもおすすめです。
土日が潰れることもありますが、会議だけでなく趣味を通じて会うことで、より親しくなりやすいですね。
大事なのは、嫌々ではなく自分が楽しめる趣味を選ぶこと。続けるうちに自分も楽しめるようになれば、それが一番良いですね。
キャリアの前半戦をどう戦うか?20代の挑戦と30代の選択
ー良いキャリアを築くためには、得意分野を職人的に極めるべきでしょうか?
一定の年齢を過ぎると、苦手なことを克服するよりも、得意なことをとことん伸ばす方が効果的です。
しかし、20代のうちは、自分が得意なことが何か分からないと感じる人も多いのではないでしょうか。
さまざまなことに挑戦していく中で、自分が苦手だと思っていたことにやりがいを感じたり、思わぬ成果を上げて喜びを感じることもあります。だからこそ、若いうちは色々なことにチャレンジしてみるのがよいと思いますね。
ー20代は色々なことにチャレンジするといいんですね
そうですね。今は「無理ならすぐ次へ」と言われがちですが、ある程度は「やり切った」と思えるまで取り組むことも大切です。短期間でも「本気でやったね」と周囲に認められるくらい努力するのが理想ですね。
なぜなら、自分の価値や評価を正確に把握するのは難しいから。
自分では頑張ったつもりでも、周囲からは「全然やっていない」と見られ、ジョブホッパーのような印象を持たれることもあります。
今後はそうした評価がより厳しくなるでしょう。
だからこそ、「やり切った」と実感できるまで同じ仕事や環境で努力するのも、一つの選択肢だと思います。
ーある程度キャリアを積んだ30代以降はどのように過ごしたらよいでしょうか?
30代は、一種の「万能感」を抱きやすい時期です。仕事がルーティン化し、自己肯定感が高まるとともに、係長やマネージャーなどの役職に就くことも多くなります。さらに、結婚などのライフイベントが重なることも多く、まさに「脂が乗ってくる」タイミングです。
しかし、30代がキャリアの折り返しではないんです。
- この時期に慢心するのか?
- さらなる成長を目指して横のつながりを広げたり、上司の業務に興味を持って学んだりするのか?
上記で将来のキャリアは大きく変わります。
起業や転職などの新たなチャレンジも視野に入れ、今までの働き方を見直し、次のステップを考えることが必要だと思いますね。
ー30代の努力がそれ以降の差になるんですね
そうです。キャリアの第一コーナーは40代前半。20代・30代は、そのピークに向けて努力を着実に重ねていけるとよいですね。
ただし、キャリアはそこで終わりではありません。50代・60代・70代と、第二・第三のピークを迎えられるように人生設計をしておくことで、仕事の幅が広がり、より充実したキャリアを築けますよ。
上場企業の社長の多くは、40代で上場し収益を上げた後も、成長を目指して向上心を持ち続けています。
成功していると見なされる方々でも現状に満足せず、常に次のステップを見据えて進んでいるように感じますね。
ーある程度キャリアを築くと「これでいいか」と満足してしまうことがありますが、そのような方にアドバイスはありますか?
無理に高い志を持つ必要はありません。仕事は生きるため、お金を稼ぐ手段であっても問題はないでしょう。
しかし、特に趣味がない場合、1日の大半を仕事に費やすことになりますよね。もしその仕事が面白くないと、日常そのものが楽しくなくなってしまうのではないでしょうか。
焦る必要はありませんが、向上心を持つことは重要だと思います。
また、今後はAIの進化により、肉体労働やエッセンシャルワーカー以外の仕事がなくなる可能性もあるといわれています。だからこそ、時代の変化を見据え、視野を広げて新しい情報を取り入れていくことが大切です。
「選択肢を広げ、未来を見据えたキャリア設計を」—変化に対応するために今必要なこと

ーこれからの時代、変化を見据えて動くことが重要なのですね
そうですね。かつては会社が守ってくれていましたが、今は長く組織に所属していても、一定の年齢に達すると早期退職や転籍などを迫られることもあります。
これからは、こうした傾向が一層強まるでしょう。のんきに生きるのも大変な時代が来ているのです。
ひとつの仕事や企業に依存する生き方は、むしろ不安定で恐ろしいもの。
安定した生活を送るためにも、情報をキャッチアップし、2本目・3本目の足を作っておくことが重要だと思いますね。
ー自ら選択肢を広げていく意識が重要なのですね
そうですね。現在、事務的な仕事の多くはAIによって代替可能になっています。
そのため、今後はデスクワークの需要が減少し、工事現場や介護など、フィジカルな仕事(ブルーカラー職)の需要が高まると予測されています。
一方で、中小企業や派遣業では人手不足が続いているという声もありますが、それもいつまで続くか分かりません。
このような状況を踏まえると、「給料を求めつつも、きつい仕事や汚い仕事を避けたい」と考える人々にとっては、今後ますます厳しい環境になるかもしれませんね。
ー時代の変化に合わせて、キャリアを見直すべきでしょうか?
最終的な決定権を持つのは自分自身です。
もし、仕事を通じてとにかくお金を稼ぎ、趣味や家族との時間を充実させたいのであれば、収入を増やすようなキャリアを選ぶのがよいでしょう。
一方で、自分の望む仕事や働き方を実現したいのであれば、そのためにより一層の努力が求められる社会になると感じますね。
20〜30代必見!キャリアの成功法は「40代前半から逆算すること」
ー最後に、「将来的にキャリアイメージを広げていくコツ」に関してメッセージをお願いします
20代や30代の方は、「40歳前半の自分がどんな姿になっていたいのか」をイメージしておくことが大切です。「どんな仕事をしているのか」「どんな自分になっているのか」をできるだけ明確に思い描くとよいでしょう。
そのビジョンを実現するためには、以下を考え、それらに沿って行動することが重要です。
- どのような努力をすべきか?
- どの会社や部署に進むべきか?
- どのような人と知り合うべきか?
そうすることで、ゴールに近づきやすくなるとともに、充実した日々を送れます。
ー40歳前後を1つのターニングポイントとして、キャリアを考えるのがよいのですね
その通りです。そもそも明確なビジョンがないと、成功は難しいですよね。
成功した人たちでさえ、具体的に描けるのはせいぜい20年先のビジョンまで。
それ以上の未来については、自分が生きているかどうかも分からず、世の中が大きく変わる可能性もあるため、具体的にイメージするのは難しいんです。
20代の方にとって、40歳は遠い未来のように感じるかもしれませんが、漫然と過ごしていると意外とあっという間にその時が来てしまいます。
だからこそ、40代前半の第一コーナーに向けて具体的にイメージを描きながら、逆算して行動していくことが非常に重要だと思いますね。