【さいしょ糖尿病クリニック税所院長】患者に寄り添う糖尿病治療と持続可能な未来への挑戦

慶應義塾大学を卒業後、糖尿病専門医としてキャリアを積み、現在は『さいしょ糖尿病クリニック』を運営している、税所芳史さんにお話を伺いました。

税所芳史さん

さいしょ糖尿病クリニック
院長
税所芳史さん

東京都新宿区生まれ。
1998年に慶應義塾大学医学部を卒業、慶應義塾大学医学部内科学教室入局。2002年より糖尿病専門医として研修を開始する。
2022年、さいしょ糖尿病クリニックを開設。

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東京都内で生まれ小学生から受験を経験

── 学生時代についてお伺いできますか?

私は東京都の新宿区で生まれ育ちました。都庁の近くですごく都会的なイメージかもしれませんが、近くには新宿中央公園、明治神宮、代々木公園などがあり、意外に自然や遊び場も多い土地柄です。私が幼いころはまだ都庁はできておらず、広い空き地としてお正月には家族で凧あげなどをした思い出もあります。

小学生の頃はよく外で遊びました。近所のサッカークラブに入って、終わった後は駄菓子屋でお菓子を食べてみんなで銭湯に行く、という感じでしたが、5年生頃になると「ファミコン」が登場し、みんなでゲームに夢中になりました。

その頃、両親からは中学受験を勧められ、はじめはいやいやながら塾に通い始めましたが、志望校ができてからはやる気が出て、少しでも点数が上がるように、例えば、朝少し早起きして苦手な計算ドリルをするなど、自分なりに工夫するようになりました。

その結果、慶應義塾普通部に合格することができました。

── 学生時代に、不安な点はありましたか?

中学入学の際には、周りの人に自分がついていけるか不安がありましたが、学校が始まり友達ができるとそんな不安もいつの間にかなくなり、楽しく学生生活を過ごしました。バスケ部に入部し、毎日厳しい練習の日々でした。

勉強との両立は大変で、レポートの提出前などはよく徹夜でレポートを書き上げていました。それでもそのレポートがよい評価を頂いたりして、とても励みになりました。

高校や大学への進学の際には、外部から受験を勝ち抜いて入学してくる生徒たちの存在が良い刺激となり、モチベーションを保ちながら、勉強を続けられました。

税所芳史さん
大学時代はアメリカンフットボール部で活躍

厳しい環境が育んだ強さ、研修医時代の困難とその後の成長

── 糖尿病専門医を目指したきっかけは何でしょうか?

数ある診療科の中で内科を、特に糖尿病を専門に選んだのは、さまざまな理由がありますが、研修医時代に初めて担当した患者さんが糖尿病を患っていたこともひとつの理由かもしれません。

例えば、胃のポリープであれば内視鏡で切除すれば治療は完了しますが、糖尿病は一生付き合っていかなければならない疾患です。治療の過程で他の病気を併発することもあり、医師は、その一連の過程を見守りながら、患者さんに寄り添っていくことが求められます。長期的に患者さんと関わりながら、自分自身も成長できる点が非常に魅力的だと感じたため、糖尿病の専門医を選択しました。

また、理論や考え方に基づき、患者さんとしっかり向き合いながら治療を進めるスタイルが、自分に合っていると感じています。

── 研修医時代はどのように働かれていましたか?

卒業後は内科の研修医として2年間、大学病院で研鑽を積みました。慶應病院の内科学教室では、当時2年間ですべての専門内科をローテートする仕組みでしたので、内科医として幅広い知識と経験を得ることができました。またその後の2年間は関連病院でさらに研鑽を積みます。私は清水市立病院(現 静岡市立清水病院)と平塚市民病院に出向しましたが、そこでは主治医として患者さんを診療させて頂くことで多くの経験を積むことができました。

関連病院での医師3年目、4年目には心臓カテーテル検査や内視鏡検査などにも積極的に関わり多くの技術を身につけることができ、病院でいろいろなことを任せてもらいました。一方で一度に20人から30人の入院患者さんを受け持つこともあり、とてもハードな毎日でした。一睡もできない当直の翌日も普通に一日の診療を行うのが当たり前の、「働き方改革」の今ではとても考えられない生活でしたが、それでも一日の仕事を終えた後にさらに仲間たちとゴルフの打ちっぱなしに行き、その後焼肉屋で夜遅くまで焼肉を食べて帰っていたのも今となってはよい思い出です。「あの時頑張れた」ということは、その後の自分の自信にもなっており、そこで学んだことは現在まで私の医師としての土台になっています。

この経験は、その後のキャリアの形成に大いに役立っています。

『清潔、笑顔、思いやり』—患者さんが通いたくなる糖尿病クリニックづくりを目指して

── 糖尿病治療のやりがいは何でしょうか?

糖尿病治療の根本は、生活習慣の改善にあります。しかし、その改善には時間と根気が必要であり、患者さんの個別の背景に寄り添いながら、一歩ずつ進めていくことが求められます。

糖尿病専門医には、患者さん一人ひとりの心に寄り添い、心理的アプローチや人生観、生活スタイルを考慮した治療が必要です。このようなアプローチは、非常にやりがいがあり、治療の面白さを感じる部分でもあります。

また、適切な治療を提供するには文化的な要素に対する理解、具体的には、医学だけでなく、心理学や社会的背景、文化についての理解が不可欠だと言えます。

患者さんとの関わりの中で、相手の生活習慣や考え方を理解するうえで、このような多面的な価値観・知識を持つことが重要であると思います。

── クリニック運営において意識されているポイントは何でしょうか?

もちろん、初めての診察では短時間で信頼関係を築くのは難しいこともあります。だからこそ、何度も患者さんに来院してもらい、継続的に診察することが大切です。そういった意識を持ちながら外来診療を行っています。

私たちのクリニックでは『清潔、笑顔、思いやり』を大切にしています。クリニックを開業するにあたって、スタッフとも話し合い、この気持ちを忘れないようにしています。

── 通いやすいクリニックづくりは重要ですね。

そうですね。患者さんが「つらい」と感じる場所であれば、続けて通おうとは思わないでしょう。糖尿病は一生付き合っていく疾患ですから、通いやすい環境を作ることが大切です。

また、患者さんには話をしてもらうことを心がけています。こちらから一方的に話すのではなく、患者さんの話に耳を傾けるようにしています。

そして、クリニックを開業する際にはホームページも意識しました。あらかじめ患者さんに私の考えを知ってもらうことで、信頼を築く手助けになればと思っています。

税所芳史さん

税所院長が影響を受けた人生の3冊

── 最後に、税所院長のキャリアに大きな影響を与えた3冊についてお伺いします。

養老孟司『唯脳論』

私のキャリアに影響を与えたものの一つは、養老孟司さんの『唯脳論』です。養老孟司さんには多くの著書がありますが、『唯脳論』はその出発点だと思います。

この本の主張は、人間が現実だと思っているものは、すべて頭の中で作り出されたものであり、私たちが考える世界は脳の産物に過ぎない、というものです。

現在ではこの考え方が広く知られるようになり、ある意味では常識になっていますが、読んだ当初は非常に衝撃的で、私の思考にブレイクスルーをもたらしました。

内田樹『日本辺境論』

もう一つ影響を受けたのは、内田樹さんの『日本辺境論』です。この本は、日本人のものの考え方について深く掘り下げたもので、まさに目から鱗が落ちるような体験を与えてくれました。日本は世界の中心から少し外れた場所にあるため、日本人は常にその立場を意識している民族だという主張が印象に残っています。これを知ることで、アメリカや他の海外諸国に対するわれわれ日本人の反応がより理解しやすくなりました。

ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』シリーズ

最後に、最近読んだ『サピエンス全史』も非常に興味深いものでした。この本は広い視点から人類史を俯瞰的に見せてくれるもので、客観的に人類の歩みを考える上で大変面白い内容でした。

他にも、多くの本から影響を受けてきましたが、思考の面で大きく影響を受けたのは、この3つの書籍でしょうか。

── 3冊から得られた教訓は何でしょうか?

これらの書籍を通じて学んだのは、人間の行動は知らず知らずのうちに自分の思考に影響されているということです。

自分の考えに基づいて行動し、それが自分にとって良い結果をもたらすかどうかは、結局のところ自分で実際に行動してみなければわかりませんし、それが良かったかどうかは最終的には死ぬまでわからないとも言えます。

だからこそ、何を信じるか、何に基づいて行動するかが非常に大事です。自分が納得して選択した生活、人生であれば、結果に関わらず満足感は得られると思います。

そして、私はその選択をサポートしたいと思っているのです。

一人ひとりの生活習慣改善が、社会にも影響する

── 生活習慣を改善することはどのような意義をもたらすのでしょうか?

もちろん誰もが病気になる可能性はありますが、自分の生活習慣を改善することで、予防することも可能です。それによって社会的な損失を防ぐことができ、医療コストも抑えられるでしょう。

さらには、無駄な資源を使わず、SDGsの理念にもつながる行動が取れるようになります。例えば、自分の体の健康を意識して正しい行動を取ることで、一人ひとりの行動が結果的に環境保護にも貢献することになります。大量消費による健康を害するような行動を避け、歩くなどの習慣を持つことで、地球環境にも良い影響を与えるのです。

健康に良いことは、地球にとっても良いことが多いのです。「自分のからだに過度の負担をかけない」ことは、「社会や、地球環境への負担を減らす」ことにもつながります。ですから、個々がそうした行動を取ることで、環境保護や、さらには争いの防止にもつながる可能性があると考えています。

── さいごに、読者へメッセージをお願いします。

最近では、インターネットを通じて糖尿病の予兆を感じ、来院される方が増えてきています。生活習慣を見直すことが、糖尿病に関連する疾患のリスクを減らすために重要です。

糖尿病は予防可能な疾患であり、正しい知識を身につけることで、病気の進行を防ぐことができます。私たち医師としては、早期に正しい知識を提供し、病気の予防を支援したいと強く願っています。

これからも私は、医師という形で、人々の健康の向上を通して、社会全体、ひいては地球全体での、よりよい未来の実現に少しでも貢献していきたいと思っています。

税所芳史さん
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