【株式会社EN社長】医療業界のキャリア形成最前線:フリーランス医師と開業医の未来を探る

株式会社ENの代表、鎌形博展さんは、医師と医療機関をつなぐプラットフォーム「Med-Pro Doctors」や、医療機関の開業・事業承継と運営を支援する「Med-Pro Consulting」を展開しています。今回は、医療業界の働き方改革の現状や、医師のキャリア形成について、特にフリーランス医師や開業医のキャリア形成に焦点を当ててお話を伺いました。

株式会社EN
理事長・CEO
鎌形 博展さん

慶應義塾大学大学院経営管理研究科 にて、医療政策、地域包括ケアシステムなどを修め、卒後は東北大学発AI医療画像解析ベンチャー、東京大学発感染症診断機器ベンチャーの立上げをしつつ、街のクリニック立川・村山を開業。2020年医療法人社団季邦会の理事長に就任し、都内3クリニックを運営するに至る。医療機関のトップとして、全力でコロナ禍に立ち向かったが、その中で様々な課題に気付くことになった。医療業界の課題解決から、社会をもっと良くしたいという思いで、2023年1月株式会社ENを創業した。

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医師の幅広いキャリア選択

昔ながらの王道キャリアとしては、大学の医局に所属し、関連病院で修行しながらキャリアを積む方法が一般的でした。この過程で、大学院に入学し、*PhDを取得して研究成果を上げ研究を続ける人もいれば、博士課程修了後に臨床に戻る人もいます。

臨床に戻ると、大学内で講師や准教授、主任教授といったポジションを目指すルートや、関連病院で部長などの役職に就くルートもあります。また開業医として独立したり、知り合いのつてで新たな病院に転職するなどして、新しいキャリアを築く人もいます。

*PhD・・・Doctor of Philosophyの略称。大学院の博士課程を修了した者に与えられる学位のことで、博士号のことを意味する。

過酷な労働環境にある医局の現実

医局の王道キャリアには、さまざまな魅力と厳しさがあります。

まず、最先端の研究や医療に携わるチャンスがあり、出世することで社会的に大きな影響を持つことができます。
また、高い地位に就くことで尊敬されることもあります。

その一方で、医局の仕事は非常に過酷で、労働環境が厳しいのが現実です。精神的にも肉体的にも大きな負担がかかり、一般の業界と比べても過酷な状況にあるため、成長するのが難しい場合も多いです。

フリーランス医師の働き方とキャリア戦略

フリーランスの医師は以前から存在していましたが、最近では比較的認められるようになり、珍しくなくなってきました。

大学院生や子育て中の方など、さまざまな事情を抱える人がフリーランスとして働きやすくなっています。医者の資格があれば、他の職業に比べてフリーランスとしての仕事を見つけるのが容易であり、ライフスタイルに合わせた働き方がしやすく、常勤よりも高収入を得られることが大きなメリットです。

安易な選択はNG!キャリア戦略を描いた上で選択を

フリーランス医師は、現在の良い環境が将来も続く保証はなく、将来的な不安が唯一のデメリットといえるでしょう。
特に若手の場合は慎重に選択する必要があります。

たとえば、SNSなどで「今のうちに稼いで資産形成をしよう」といった考え方は、お金の面では有効な方法です。一方で、「どんな環境でも通用するキャリアを築きたい」と考えるなら、フリーランスになるのは避けた方がいいかもしれません。

結局のところ、自分がどのようにキャリアを築きたいか、どんな生き方を目指すかによって、選ぶべき道が変わってくると思います。

技術面かヒューマンスキルで高いクオリティを持つ

他の人ができない難しいことができる人は重宝されます。

たとえば、難しい手術ができたり、胃カメラが非常に上手で早いといったスキルを持っている人は、特に評価されるでしょう。また、汎用性の高い能力もアルバイトやフリーランスとしては非常に重宝されます。どんな患者さんにも対応でき、それなりのクオリティで、しかもスピーディに診療をこなせる医師は、患者さんからの満足度が高く、スタッフも一緒に気持ちよく働けます。

このようなビジネスマン的な要素を持つドクターは少ないですが、そういう人はどこでも高く評価され、他の場所からも「うちに定期的に来てほしい」といったオファーが来ることもあります。

開業医の働き方とキャリア戦略

これまでの開業医は競争がそれほど激しくなかったため、経営リスクが比較的低く、安定した収入を得ることができ、経済的なメリットが大きい選択肢でした。

一方で医療水準の向上には限界があり、研究や専門的な興味を追求するのが難しいというデメリットもあります。
人と接するのが好きで、医療よりも一般的な接客を楽しめる人には向いていますが、経営者としてのストレスもあり、その向き不向きが存在します。

地方かつ早めの開業が成功の鍵

現時点で都市部での開業は、特に成功できるビジョンを持っていない限り、おすすめしません。能力がある人なら挑戦する価値がありますが、そうでない場合、成功は難しいでしょう。

一方で、地方であればまだ開業のチャンスはあります。もし最終的に開業を目指すなら、早めに行動するのが良いです。時間が経つにつれて、成功しやすいエリアが減少し、結果的に自分が望んだ形での開業が難しくなる可能性があるからです。

期限を切りタイミングを逃さない

先述のように都市部での開業は厳しくなってきていますが、それでも飲食業界などに比べれば比較的始めやすい世界です。無難に進めていけば、大きな失敗をすることは少なく、そこそこの成功を収めることが可能です。

よくあるのは、慎重に考えすぎてタイミングを逃してしまうパターンです。これではもったいないので、まずは開業するタイミングを決めることが重要です。勉強や計画も大事ですが、まずは「いつ開業するのか」を決めることから始めましょう。

失敗回避のコツは信頼できる人からの情報収集

開業に向けて進む際、避けるべき落とし穴があります。それは、開業場所や物件選びの失敗です。変な人に騙されて相場からかけ離れた価格で物件を購入するようなことがないように気をつける必要があります。

開業後の勉強や準備は、開業してからでも対応可能です。例えば、人事ルールや財務については、後から学びながら進めても大丈夫です。重要なのは、成功するためのノウハウを持っている人を頼ることです。成功している先輩など、信頼できる人に相談し、間違いのないように進めることが大切です。

一定のキャリアを積んでから開業を

開業は中堅医師にはお勧めです。しかし、シニア層になると、まとまった資金が必要で、投資を回収できるかというリスクもあるため、一般的にはあまり選ばれない選択肢です。もちろん、自信があるなら挑戦しても良いですが、多くのシニア医師はあまり選ばないでしょう

また、若手の場合は少し複雑です。早めに開業するのが良いとされる一方で、例えば医師としての経験が2年しかない状態で開業するのはリスクが高いです。事故や訴訟のリスクを考えると、少なくとも4、5年の経験を積んでから開業する方が安全です。

医師の仕事を軽視している人もいますが、開業医にはそれなりのリスクが伴います。自分が特に優れていると確信があるなら早期の開業も考えられますが、通常は数年の経験を積んでからの方が無難でしょう。

優れたコミュニケーション能力が開業成功のカギ

コミュニケーションが得意な医師は、患者さんを満足させることができるため、開業後も成功する確率が高いです。もちろん、日本でも稀に特別なスキルを持つ医師や、手術が非常に得意な医師もいますが、そうした例外を除けば、コミュニケーション能力が最も重要な要素と言えます。

逆に開業失敗の原因としては、コミュニケーションが不足していることや、明らかに不適切な場所や物件、コンセプトで開業しようとすることが挙げられます。開業する際には、基本的な部分をしっかりと押さえることが大切です。

医療業界の現状と理想的なキャリアを積むために必要なこと

現在、医療業界では働き方改革が本格化していますが、医療機関によって対応は様々です。

例えば、以前のようにブラックな環境を続けているところもあれば、表面上は改革を進めているものの、実際には給料が減り、サービス残業が増えている医療機関もあります。さらに、労働時間や給料が減った結果、副業をして生計を立てている医師もいます。

医療機関は先手を打って働き方改革を

働き方改革が進む中で、労働環境は徐々に改善される見込みです。数年後には、過去のような過酷な状況には戻らないと考えています。しかし、医療機関ごとに対応が異なり、医師が集まりにくい場所では、改革が進まないこともあります。そのため、今のうちに積極的に働き方改革を実施し、優れた労働環境を整えることで、他の医療機関よりも先に人材を集めることが重要です。

収益向上が医療機関の生き残りを左右する

労働環境を改善するためには、まずビジネスとして成功し、収益を上げることが必要です。収益がなければ、労働環境の改善は難しく、経営者の手腕が重要になります。収益を上げられない医療機関は、将来的に閉鎖のリスクが高いです。

また、国は急性期医療から地域包括ケアへの転換を推奨しています。これは10年以上前から続いている国の方針ですが、コロナ禍では補助金のおかげで、本来は経営が厳しい医療機関も生き延びてきました。今後、経営に不安を感じる医療機関は、経済的に余裕がある今のうちに急性期医療をやめ、地域包括ケアへの転換を考えるべきでしょう。

求職者は自分の価値観を明確にする

多くの人は、自分が本当に望んでいることがわからないままです。まずは、自分の価値観や生活の理想を明確にしましょう。どんな働き方をしたいのか、どのような生活がしたいのかをはっきりさせることが必要です。価値観を定義できれば、現在の売り手市場では、それに合った職場を見つけるのは難しくありません。

もし自分で見つけるのが難しいと感じるなら、私たちに相談してもらえれば、自分の理想やキャリアの方向性を具体化するお手伝いもできます。サポートが必要な場合はぜひご相談ください。

口に出すことでご縁が生まれる

自分の理想的なキャリアについて考えるとき、口に出して言うことが重要だと思います。これは私自身の経験からも実感しています。

例えば、「こういう場所で働きたい」といった具体的な願望ももちろん大切ですが、特別なことを実現したい場合は、その夢を言葉にして周囲に伝えることが重要です。そうすることで、自然とつながりやチャンスが増えてくるものです。

プロフェッショナル医師の採用支援「Med-Pro Doctors

私たちは、プロフェッショナル医師と医療機関のマッチングプラットフォーム「Med-Pro Doctors」を展開しています。仲介費用を一切取っていないため、報酬面ではかなり良い条件の仕事が多いです。

また、フリーランス向けプラットフォームとして、他業界でよく見られる星評価制度を導入しています。医師の皆さんは評価されることにあまり慣れていないかもしれませんが、この仕組みを通じて自分の成長にもつながるでしょう。

評価が高い医師は、自然と良い仕事に出会える可能性も高まります。経験を積み重ね、将来的に自身の価値を高めるための基盤を築く場として、このプラットフォームを活用していただければと思います。

使いやすさに拘ったプラットフォーム

Med-Pro Doctors」では、医療機関と医師が直接やり取りできるため、事前に確認したいことを医師自身が確認できます。これにより「思っていたのと違った」といったトラブルを避けた状態で仕事に臨むことができます。さらに、UIも現代的で使いやすい設計になっているため、不慣れな方でもスムーズに利用できるでしょう。

加えて、私たちに条件を伝えていただければ、キャリア相談を受け付けたり、希望する仕事を一緒に探すことも可能です。普通の紹介業者とは異なり、私自身が担当するため、医師の希望を明確に把握し、それに合った最適な仕事を見つけることができると考えています。

広告収入や周辺サービスで無償提供を実現

ドクターに対してプレミアムな情報を提供し、その情報を提供している企業から広告費をいただいています。例えば、現在は大丸松坂屋さんが広告を出してくれており、シークレットイベントなどをドクターにご案内しています。

これにより、企業側はハイクオリティなターゲット層であるドクターに安心して参加してもらえるというメリットがあります。シークレットなイベントなので、マス向けには宣伝せず、特定の医師にのみ情報を提供しています。こうした取り組みで広告収入を得ています。

また、開業支援や新規事業支援など、周辺のサービスもいろいろと展開しており、これらからの収益で何とか運営を続けています。そのため、今後もプラットフォーム自体は無料で提供し続けることを目指しています。

人材のミスマッチを生む収益化目的の既存構造

医療業界は非常に売り手市場で、どこも医師不足の状態です。そのため、多くの紹介会社は条件が合う医師を見つけて、条件に合いそうな医療機関に紹介するだけで、マッチングして収益が得られるという状況が続いています。

つまり、紹介会社が本当に「この仕事にはこの人が適しているか」を真剣に考える必要がないのが現実です。

その結果、条件が一致するだけで医師が紹介されることが多く、満足のいくマッチングがされず、結果的に不幸な状況が生まれがちです。紹介会社は収益があるため、問題に対してあまり意識が向かないのですが、実際にはこの仕組みでは満足度の高いマッチングが難しいです。

原体験となったコロナ禍での発熱診療経験

私がこの状況を実感したのは、コロナ禍の際です。特にダイヤモンド・プリンセス号の件が話題になり、感染症が猛威を振るっていた時期に、私は発熱診療を続け、毎日のように遠方から来る患者さんを診察していました。この経験から、人材のミスマッチが大きな要因となり、医療の質がどうしても低下してしまうことに気づきました。医療の質を高めるためには、適切なマッチングが重要だと実感し、この問題に取り組むべきだと思いました。

物件選定から運営支援までの一貫支援サービス

私たちは、医療機関の開業・継承支援サービスである「Med-Pro Consulting」も展開しています。最近では、仲介業者との連携も行ったので、物件の選定からクリニックの設立後のサポートまで、一貫してお手伝いできるようになりました。

具体的には、物件の評価や購入前のアドバイス、開業後の運営支援まで行っており、マーケティングや事務長代行も対応しています。業界内ではこういったコンサルティングサービスに対する信頼性が低いこともありますが、私自身のノウハウと実績に基づき、高いクオリティのサービスを提供しています。

株式会社ENの今後のビジョン

私は医療と介護の業界での課題解決に取り組むと決めており、その中でも人材に関する問題に焦点を当てています。医療や介護の分野では、技術が進化しても最終的には「人」が重要で、経営の難しさも人材の問題が大きいと感じています。人材問題を解決することが、サービスの質に直結するという確信があります。

さらに、社会全体としても、人材不足の問題は一生解決しないと考えています。このため、人材不足の中でどのように問題を解決し、質を向上させるかが非常に大きなテーマだと考えています。現在もこの分野に関連する事業を立ち上げており、今後も引き続きこの課題に取り組んで参ります。

医療業界の発展をともに

現在取り組んでいる「Med-Pro Doctors」というプラットフォームは、赤字を出しながらも世の中を良くするためにほぼ全て善意で運営しています。私たちの思いを理解し、サービスを使ってくれるだけでも大変嬉しいですし、さらに周りの人にも広めてくださればもっと嬉しいです。また、企業であれば、ダイマルさんのように資金面で応援していただけると、とても助かります。

さらに、キャリアや人材についても幅広く取り組んでいます。医師や薬剤師、看護師の方々も大歓迎です。もし興味があれば、相談したいことや仕事に関わりたいこと、応援したいことなどがあれば、お気軽にご連絡ください。共に医療業界をより良くしていけたらと思っています。

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