舞台から教育現場へ—。元舞台俳優・演出家という異色の経歴を持つ安堂達也氏は、演劇で培った感性を携え、幼児教育の世界に飛び込みました。広告制作、そして自治体との協働を経て、バブル崩壊後の社会変革期に幼稚園業界の可能性に着目。幼児教育の現場で働く人たちの純粋さに魅せられ、20年以上にわたり幼稚園に特化したコンサルティングを展開。本インタビューでは、安堂氏が提唱する「同僚性の向上」—より良い人間関係を築くための自己理解—から、労働環境の改善、さらには求職者へのメッセージまで、演劇というバックグラウンドから紡ぎ出される独自の視点と情熱を語っていただきました。
株式会社安堂プランニング
社長
安堂達也さん
株式会社安堂プランニング代表取締役兼幼稚園☆元気塾主宰。1995年の創業以来、2004年より私立幼稚園・保育園(認定こども園)の経営コンサルタントとして、園児募集と人材育成の両面から経営を支援しています。
集客ノウハウを活かした経営指導と、コミュニケーション心理学、販売促進のノウハウを応用した心理支援が好評。
全国各地で幼稚園経営者へのコンサルティングを提供しつつ職員研修の講師を務めるほか、洋上研修など企業リーダーの人材育成でも実績があります。
認定心理士、交流分析士インストラクター、魅力心理学士他の心理学系の資格を有し、著書に「園児を集める49のヒント」「保育者のための早わかり連絡帳の書き方ハンドブック」(民衆社刊)「できる人の会話術」(学研刊)などがあります。
経営指導、職員研修、心理支援、広告制作と幅広い領域で活躍中です。
演劇青年から広告マン、そして幼稚園コンサルタントへ
ビジネスの原点は演劇制作
私のキャリアは演劇の世界から始まりました。10年ほど劇団を主宰、その傍ら広告制作に従事し、自ら会社を起業しました。 現在の社名「安堂プランニング」は、私の芸名に由来しています。本名は安達和悦ですが、ビジネスの場でも芸名の方が通りが良かったため、そのまま社名として採用しました。
演劇活動だけでは収益面で課題がありましたので、芸能界での人脈を活かしてイベントや舞台制作の受託業務を展開するようになりました。
そうした中で自治体からの依頼が増え、広報用のパンフレット制作なども手がけるようになったのが、現在のビジネスの礎となっています。 今から30年前、まだホームページでなくパンフレットが主流だった時代のことです。
当時は紙媒体のデザイン制作を中心に事業を展開していました。活動エリアは北関東、特に栃木県南部を拠点としていましたね。 群馬県との県境、いわゆる両毛地域で、自治体との取引を着実に拡大していきました。
しかし、バブル崩壊後、自治体の予算が縮小傾向になる中で、新たな可能性として幼稚園業界に着目しました。
幼稚園業界の魅力は、経営者との直接的なコミュニケーションがとりやすい点にありました。 さらに、私自身が5月5日、子どもの日の生まれということもあり、子ども教育関連の仕事には何か特別な縁があるのではないかという直感的な確信もありました。
幼稚園経営者の純粋性との出会い
幼稚園の経営者の方々は、まさに一国一城の主として、強い個性を持って園を運営されています。
国の教育要領という基本的な枠組みはありますが、実際の教育内容については各園の裁量が大きく、それぞれの経営者が独自の理念と哲学を持って運営に携わっておられます。
私自身、従来の枠にとらわれない発想の持ち主だと評されることが多く、そういった意味で幼稚園経営者の方々との相性が非常に良かったのだと思います。
幼稚園の先生方の特徴は、何より教育者としての使命感を大切にされている点です。商業的な要素を前面に出すことに躊躇を感じる方も多く、そうした教育現場ならではの「純粋性」に私は深く共感を覚えました。
私が幼稚園専門の活動を始めた20年以上前は、まだPR活動も手作りのパンフレットが主流という時代でした。 演劇活動で培ったプロモーションの経験を活かし、各園の持つ独自の魅力や価値を効果的に伝えていくことが、私の使命だと考えて活動を続けてまいりました。
広告制作から経営コンサルティングへ
対人コミュニケーションの見直しは自己理解から
幼稚園向けの研修において私が最も重視しているのは、同僚性の向上、すなわち教職員間の信頼関係の構築です。これは舞台芸術において、最高のパフォーマンスを引き出すために役者同士の深い信頼関係が不可欠であることと本質的に同じなのです。
教育目標を真に達成するためには、指導者自身が明るく、温かく、知性に満ちた人格を備えている必要があります。しかし現実には、幼児教育に携わる方々すべてが十分な自己肯定感を持っているとは限りません。
自己肯定感が十分でない方は、往々にして子どもを心から褒めることが難しい。これは、自身が受けてきた教育体験が、その人の教育者としての在り方に大きく影響するためです。
そのため、私たちは自身の価値観や人間観を深く見つめ直す必要があります。
人は誰しも無意識のうちに、親しみを感じる相手に好意的になり、苦手な相手を避けがちです。保育者としてこれは本来あってはならないことですが、人間である以上、こうした感情は自然に生まれてきます。
ですから、まず自己への深い理解を築き、対人関係における自身の特性を把握した上で、すべての子どもたちに公平な愛情を注げる教育者としての立ち位置を確立することが極めて重要です。
この自己理解の深さは、同僚との関係性や保護者との対話にも大きく反映されます。
教育理念や指導方針に基づくチーム保育の実現には、教職員間の緊密なコミュニケーションが不可欠な要素となります。
さらに、保護者からの声に真摯に耳を傾け、それを園の発展に活かしていく姿勢も重要です。
これは、演出家やスタッフとの緊密な連携のもと、観客の反応を丁寧に受け止めながら舞台を創り上げていく過程と、本質的に通じるものがあります。
幼稚園の労働環境改善に向けて
幼稚園の労働環境は、長年にわたり教職員の献身的な努力に依存してきた側面があります。
以前は「子どもが好きだからこそ選んだ職業」という前提のもと、時間外労働や自宅での作業が常態化し、結婚を機に退職することも当然視されていました。
経営側においても、若手労働力の確保を前提とした賃金体系で運営が可能だった時代が続いていました。
その結果として、労働法規に関する正確な理解が十分でないまま、職務に従事している方々が少なくないのが現状です。
こうした課題に対する改善の第一歩として、労働に関する基本的なルールの共有が不可欠だと考えています。
就業規則の更新と周知、そして労働基準に則った勤務体制の確立—これらを明文化し、確実に実践していくことが出発点となります。
さらに、幼稚園における教職員の業務内容自体にも見直すべき点が多々あります。
例えば、施設のメンテナンスや環境整備まで教職員が担っている実態がありました。国家資格を持つ教育者が、本来の教育活動以外の業務に時間を費やさざるを得ない状況が続いていたのです。
しかし近年では、時間外労働の削減や施設管理業務の外部委託など、改善に向けた取り組みが着実に進展しています。
職場環境の改善には、現場の課題を率直に共有し、互いの困難に真摯に向き合うことが重要です。それが、より良い教育環境づくりの第一歩になると確信しています。
【求職者へのアドバイス】園のホームページチェックは必須
転職をお考えの教師や保育士の方々には、まず園のホームページをご覧になることをお勧めしています。
幼稚園のホームページには、その園の運営方針や教育への姿勢が如実に表れているものです。
園長先生の理念や、教職員の皆様の日々の取り組みが丁寧に紹介されているホームページからは、その園の透明性の高さや情報発信への積極的な姿勢を感じ取ることができます。
特に、教職員の方々の生き生きとした表情や活動の様子が伝わってくるホームページは、風通しの良い職場環境を大切にしている園が多いという印象を受けます。
転職に関する情報収集については、一般的な求人サイトに加えて、保育に特化した専門サイトも充実していますので、ぜひ活用されることをお勧めします。
幼稚園の成長の源は「人」にあります
園の発展は教職員一人ひとりの成長によってもたらされるものであり、それぞれの才能が存分に発揮される職場づくりが何より大切です。
人材の育成と個々の力を最大限に引き出すためには、職場内の活発なコミュニケーションが基盤となります。
株式会社安堂プランニングでは、世代間の相互理解を深め、若手からベテランまで全ての教職員が協調して働ける環境づくりのお手伝いをさせていただいております。
職場環境の更なる向上をお考えの園には、ぜひご相談いただければと思います。私どもの経験を活かして、より良い教育環境づくりのお手伝いをさせていただきます。