今回は、2,000社以上で導入実績のある「すごい会議」を提供する株式会社ピグマの太田智文さんに、効果的な会議のポイントや、マネージャーに求められる姿勢、そして成果を上げるためのコミュニケーション術について伺いました。

株式会社ピグマ代表取締役
太田智文さん
1974年兵庫県生まれ。神戸大学経営学部卒業後、ベネッセコーポレーションで人材育成や新規事業開発に従事。
2003年に株式会社ピグマを創業し、代表取締役として「すごい会議」導入支援を中心に180社超の経営改革・組織変革を実現。国際コーチ連盟CPCC資格や「すごい会議」認定コーチ資格を持つ。
“なんのための会議か”を明確にせよ——会議を実りあるものにする「プロセス」とは?

—成果のでない会議を変えるために、マネージャーが会議中に意識して使うべき言葉や、工夫すべきポイントはありますか?
会議を効果的に進めるためには、まずチームのリーダーやそれに準ずる立場の人が、会議の冒頭で「目的」を明確に言語化し、参加メンバーに共有することが重要です。
会議は「何をするための場か」という目的によって、進め方や話す内容が大きく変わります。
例えば、最新情報や進捗を共有する「報告」の会議もあれば、現場の問題やトラブルに対応する「課題解決」の会議もあります。
また、メンバー同士でアイデアを出し合う「ブレインストーミング」や、最終的な方針や対応を決める「意思決定」を目的とする場合もありますよね。
目的が明確でないまま会議を始めると、話があちこちに逸れてしまい、結論も曖昧になりがちです。
その結果、「何のための会議だったのか分からない」と感じるような、質の低い会議になってしまいます。
ーなるほど、最初に会議の目的を共有しておくことが重要なのですね
そうです。さらに会議の終了時に、会議中に決まった内容を必ず全員で確認しておきましょう。
たとえ結論が出ず「持ち帰り」になった議題であっても、「誰が」「何を」「いつまでに」対応するのかを明確にしておくことが大切です。
「会議冒頭で目的を明確にし、全員で共有する」「会議の最後に、決定事項や今後の対応について全員で確認する」、この2つのポイントを徹底することで、会議はより実りあるものになり、無駄な時間や認識のズレを防ぐことができます。
言葉の使い方次第で、チームの空気も成果も変えられる
— 日常のコミュニケーションで、マネージャーが意識すべきポイントは?
相手の反応は、自分の言葉や態度によって引き出されている――そのことを意識してコミュニケーションを取ることが大切です。問いかけ一つでも、その内容次第で会話の方向性は大きく変わってきます。
たとえば、ある従業員が就業時間に間に合わず、遅刻してしまったとします。
このとき、上司やリーダーはつい「どうして遅刻したの?」と問いかけてしまいますが、この質問に対して多くの場合返ってくるのは「寝坊してしまって……」や「電車が遅れていて……」といった、“言い訳”に聞こえてしまうような内容です。
本当は事情を聞きたいだけでも、受け手にとっては責められているように感じることもあります。
一方で、問いかけを「どうしたら遅刻を防げる?」と変えてみるとどうでしょうか?
「前日のうちに目覚ましをもう一つセットしておきます」や「電車が遅れたときのために、1本早い便で出ます」など、原因の分析や具体的な対策が自然と引き出されやすくなりますよね。
このように、“言葉”は人の思考や行動に大きな影響を与えます。そのことを意識するだけでも、コミュニケーションの質やその結果は大きく変わってくるのです。
ー “言葉”次第で結果そのものが大きく変わってしまうんですね
その通りです。私は、「言葉」は人をつくるものだと考えています。そしてそれは、個人に限らず、組織にも当てはまります。
会社の方針や進むべき方向は、多くの場合、会議という場で決まっていきますよね。そしてその会議の中で交わされる「言葉」こそが、組織の文化や空気感を形づくっているのです。
もし今、業務の停滞やコミュニケーションのズレ、生産性の低下に悩んでいる企業があるとすれば、そこには「使われている言葉」の質や方向性が影響している可能性があります。
言葉を変えることで、人の動きが変わり、組織の空気が変わる。やがて、成果そのものも変わっていくのです。
とはいえ、言葉を変えるのは簡単ではありません。「言葉の重要性はわかっているけれど、どう使えばいいかわからない」という悩みもよく耳にします。
そうした課題に対して、私たちは「すごい会議」を通じて、言葉の使い方とその具体的な効果をお伝えしています。
「伝え方ひとつ」でチームは変わる——信頼を育むマネジメント術

—チームの生産性や業務の質を高めるために、マネージャーはどのようにチームのメンバーと接していくべきだと思いますか?
どんなコミュニケーションが効果的かは、チームの構成によって変わってきますね。
たとえば、10年以上のベテラン社員5人で構成されたチームと、ほとんどが新人という10人チーム――。それぞれのリーダーがメンバーに声をかける場面を比べてみると、自然と声のトーンや言葉の選び方が変わるように思いませんか?
実際、同じ言葉をかけたとしても、相手の受け取り方や反応はまったく違うはずです。
相手の立場や経験に合わせて、柔軟に対応することが大切ですね。
ー 柔軟な対応のほかに、意識すべき点はありますか?
一般的な話になりますが、コミュニケーションの基本は「相手の存在や行動をきちんと認めること」です。ただし、それは大げさに褒めることではありません。
たとえば、出社してきた相手に「おはよう」と声をかける。笑顔で挨拶を交わす。何かを頼んで対応してくれたときには、「ありがとう」と伝える。
こうした何気ないやり取りの積み重ねこそが、「承認」なのです。
大切なのは、「あなたのことをちゃんと見ています」「気にかけています」というメッセージを、自然な日常会話の中で伝えていくこと。
その姿勢が、やがて信頼関係の土台になっていきます。
ー まずは相手を認めることが重要なんですね
そうですね。これは、何かを注意・指摘する場面でも同じです。
たとえば、ある社員が締め切りよりもずっと前に提出した資料、そのクオリティが少し物足りなかったとします。
このとき、まずは相手の「できていること」に目を向けて、「期日前に仕上げてくれてありがとう」「早く出してくれて助かったよ」と、声をかけてみましょう。
相手の努力を認めたうえで、「内容については、ここをもう少し工夫できるとさらに良くなるね」と建設的なフィードバックを添えると、改善点も前向きに受け止めてもらいやすくなりますよ。
合意なき期待がチームを壊す——伝えることから信頼は始まる
ー 言葉以外で、普段から意識しておくべきことはありますか?
相手にしてほしいことがあるなら、まずは自分から行動することです。ただし、「自分がやったから相手もやるだろう」と期待すると、思いどおりにいかなかったときに疲れてしまいます。
見返りを求めずに自ら行動する。これが、心の負担が少ないマネジメントにつながります。
また、人の価値観や物事の捉え方はさまざま。だからこそ、自分の基準を一方的に押し付けても、うまくいきません。相手に何かを期待するのであれば、それを言葉にして、きちんと同意を得ることが大切です。
ー 無意識の期待をきちんと伝えることが重要なのですね
そうです。多くの組織で起こる摩擦やすれ違いには、この「合意されていない期待」が少なからず関わっています。「こうしてくれるだろう」と無意識のうちに期待していたことが叶わず、その積み重ねが失望や不満につながってしまうのです。
期待は、言葉にして初めて共有されます。合意されていない期待が悲しみや誤解を生むということを、組織として自覚できれば、そこから行動が変わっていくはずです。
「存在しているから役割がある」はもう古い——今、問うべきは「なぜ自分がここにいるのか」
—成果を最大化するために、マネージャーはどのような姿を目指すべきでしょうか?
「マネージャーはこうあるべきだ」と理想の型を作ってしまうと、かえって自分の行動を縛り、パフォーマンスを下げてしまうのではないでしょうか。
そもそも、マネージャーという役割は“目的を達成するための手段”にすぎません。目的があって、そこに向かうための目標があり、その目標を実現するためにマネージャーが存在する――この順番が本質です。
だからこそ大切なのは、「自分はこのチームや組織の目的達成のために、何を担うべきか?」を明確に自覚すること。理想の枠にはまるのではなく、成果につながる行動を選び取ることが重要ですね。
ー マネージャーとしての存在意義を理解する必要があると
そうですね。僕は、目的が不明確なマネージャーは存在する意味がないと思っています。
理想は、「そのマネージャーがいるからこそ、掲げた目標が達成できる」と感じられる状態。組織が目指す方向に、着実に進んでいけるような存在であることが重要です。
しかし現実には、自分の役割や目的を理解しないままマネジメントをしている人も多く見受けられます。これは会議も同様ですが、「なぜ必要なのか?」という目的が曖昧なまま、惰性で続いているケースは少なくありません。
大切なのは、「自分の存在が組織にどんな価値を加えているのか?」という問いを持ち続けること。そこに向き合ってこそ、本当に意味のある仕事ができるのではないでしょうか。
自己成長を加速させる、シンプルだけど強力な方法

ー 最後に、ビジネスマンとしての自分を成長させるために、具体的なアクションがあれば教えてください
おすすめしたいのは、メンターを持つことです。
「こんなふうになりたい」と思える人に出会えれば理想的ですが、そうでなくても、自分をフラットに見てくれて、変な先入観なく接してくれる人と、定期的に会う時間をつくるだけで大きな意味があります。
自分は未熟だと感じられる人ほど、実はすごく伸びる可能性を秘めているもの。でも、すべてを一人で考えて答えを出し続けるのは、よほどの天才でもない限り難しいですよね。
だからこそ、自分に問いを投げかけてくれる存在、自分を継続して見てくれる存在が重要。そういう人と定期的に対話を重ねることで、自分の思考の枠が大きく広がっていきますよ。
太田さんがキャリアの参考にした本をご紹介
山口周『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』
経営戦略を個人のライフプランに応用し、人生を戦略的・主体的に生きるための方法を解説している本なのですが、とても面白かったです。
全体的に参考になる内容が多かったですが、特に「打率を気にせず、若いうちからたくさん打席に立て」という考え方が、とても腑に落ちましたね。
山口 周(2025/1)『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』 (ダイヤモンド社)
https://amzn.asia/d/7lgfXxZ(参照2025-06-17)