【城西大学教授】これからの地域活性化について学生とともに観光学・交通学の観点から考えていきたい

城西大学(現代政策学部)教授としてご活躍されている庭田文近先生にお話を伺いました。

庭田先生は大学で交通論を学んだ後、交通経済学を学ぶため大学院に進学。大学院在学中より交通研究者が集う研究会や学会にも参加し、現在は交通や観光の視点からまちづくりについて研究をされています。

庭田先生の目線から、今後観光業界で日本の地域活性化を担いたいと考えている人へのアドバイスを伺いました。

城西大学
現代政策学部
教授 庭田文近先生

乗り物と旅行が好きだったため、交通論のゼミ(小淵洋一ゼミ)があった城西大学経済学部経営学科に進学。その後、道路混雑の経済分析に興味を持ち、交通経済学の研究室(關(せき)哲雄研究室)があった立正大学大学院経済学研究科博士後期課程に進学。大学院博士課程在学中より關先生の紹介で、交通研究者が集う日本交通政策研究会の基礎理論プロジェクト(東大名誉教授 大石泰彦先生の主宰)に参加。研究所研究員を経て、2011年に城西大学現代政策学部助教、2016年に同准教授、2022年から同教授。

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全国各地を旅して気づいた地域問題と交通の関係性

庭田文近先生 全国各地を旅して気づいた地域問題と交通の関係性

学生時代は交通論を学ぶ傍ら、休みを利用してバイクや鈍行列車を利用して日本中を旅していました。全国各地を回っていると、かつては賑わっていたであろう寂れてしまった町、乱開発されその土地ならではの良さを失ってしまった街、過密もしくは過疎で不便になってしまった土地など、さまざまな地域の実情や課題を目にしました。そして、日本各地で起きている地域問題は、その多くが交通インフラや交通サービスと密接に関わっていると気づいたので、地域と交通の関係性を深く学ぶことで地域問題に対しての理解を深め、解決していきたいと思うようになったことが現在に至るきっかけです。

観光と交通の視点からまちづくりを考える

庭田文近先生 交通の視点から観光まちづくりを考える

学生時代に全国を旅して感じた各地の問題の背景には、東京一極集中・東京依存型の社会経済構造があると思います。また、日本全体での人口減少がそれらの問題に拍車をかけているとも思います。こうした状況において、地域の課題を解決するには、地域間で定住者人口を取り合うのではなく、交流人口やいわゆる関係人口を増やすことが必要だと考えるようになりました。そしてその1つの方法として、各地域がリトル東京を目指すのではなく、その地域ならではの観光まちづくりを行うことだと考えました。その地域固有の有形・無形の地域資源を活かした観光振興と、その観光プロモーション活動は、域外からの観光客を促すだけでなく、その地域の住民たちのアイデンティティ・地域愛の醸成にもつながります。また、こうした観光を支える重要な要素が交通ネットワークになります。

このような考えをもとに、現在は「観光・交通まちづくり」をテーマに掲げ、研究を行っています。地域の活性化・持続可能な地域づくりを目的とし、より大きな地域経済効果をもたらす観光のあり方と、その隘路となる交通問題(混雑や公共交通の脆弱性、劣悪な歩行環境など)の解決方法を模索しています。

地域の魅力を最大限に活かす活性化プロジェクト

研究をするだけでなく、研究結果や仮説をもとに地域活性化を目的とする取り組みもしています。現在も城西大学現代政策学部のゼミナールにて、学生とともに地域活性化プロジェクトに取り組んでいます。研究対象となる地域について課題を明確にし、その課題を解決する方法を考え、実践することで地域に貢献しながら、私たちの研究を実際の地域問題に役立てることができるかを検証します。

具体的な事例として、埼玉県小川町の道の駅にて行ったプロジェクトが挙げられます。こちらの道の駅は、秩父への峠越えのための中継地としてライダーやサイクリストが多く利用することがわかったため、彼らと地域を結ぶための取り組みについて考えました。ライダーやサイクリストは、汗や埃で汚れた服装を気にして店に入ることをためらう人も多く、また自動車ドライバーに比べて疲労も溜まりやすいので、こうした人たちでも屋外で気軽に栄養補給できる地元食材を利用した食品を考案しました。その名も「栄養ちゃんとトルティーヤ」。小川町の地場産業として有名な和紙の製造過程で廃棄される楮(こうぞ)の葉を原料とした生地を使い、地場産の有機野菜や卵を巻いた片手で食べられる栄養食品。城西大学薬学部に依頼した分析により、楮には豊富な食物繊維とカルシウムが含まれていることもわかりました。その説明を書いた小川和紙で包装して実際に道の駅で販売したり、地元の小学生たちを招いて調理体験会を開いたりしました。このプロジェクトは、観光で訪れた人だけでなく、地域の子どもたちにも、その土地の産業を知ってもらえる取り組みとなりました。

今後の観光業には地域目線での新たな旅行価値の提供が大切

庭田文近先生 今後の観光業には地域目線での新たな旅行価値の提供が大切

交通や観光の観点から地域活性化について長く研究してきた者の視点で、今後の旅行業界で全国各地の地域活性化に携わっていきたいと考えている方にアドバイスをするならば、その地域ならではの魅力を発見する力とそれを価値に変えていくアイデアを磨くことです。

対象となる地域をよく知って愛するとともに、その土地に住む人の目線と外からの目線の両方を使うことで、これまで気づかれなかった新たな観光価値を発見することができると思います。それらを国内外の人へ、そして地域の人へもプロモーションすることで、関係人口を増やすとともに、住民のシビックプライドが醸成され、そして地域が活性化していくでしょう。そのような観光をプロデュースできる人材が、これからの地方ひいては日本全体を盛り上げてくれたらとてもうれしいです。

現状に満足することなく学生とともに地域の役に立っていきたい

今までにいろいろな地域問題について調査・研究してきましたが、「日本の地域問題に大きな貢献や成果を生み出した」という実感はまだまだありません。それだけ日本には数多くの多様な課題があり、また眠っている魅力があるからです。課題の大小に関わらず、すべての問題に真摯に向き合い、楽しみながら解決策を学生たちとともに考え続けていきたいと思っています。

そして、その学生たちがこれからの日本や地域の問題に関心を持ち、進むべき道や夢を見つけてどんどん活躍していってくれることがなによりの喜びややりがいです。

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