「平均年収2,000万円」という高い収入額で知られる企業・キーエンス。
しかし、社名こそ聞いたことはあっても、実際にどういった事業を展開しているのか、なぜそこまで高収入になる企業なのかなどまでは、詳しく知らない人も多いかもしれません。
あるいは、知っていても「そんなに収入が高いなんて、ブラックな会社なのでは?」と感じている人もいるでしょう。
そこで、「キーエンスはどんな会社なのか?」を調べてみました。すると、意外な姿が見えてきたのです。
今回は会社概要と合わせて、キーエンスについて詳しくご紹介します。
キーエンスとは
キーエンスと聞いて、どういった会社か具体的に分からない人も多いかもしれません。
しかし、それもそのはず。
キーエンスは一般消費者向けの製品は作っておらず、BtoBの事業を主力としている企業です。
そのため、詳しく知らない人が多いのも不思議ではありません。
ではどういった企業なのか、データも交えて概要を解説します。
企業向けにセンサーや測定器などを販売する企業
キーエンスは、企業向けの製品を製造・販売する精密機器メーカーです。
1974年に設立され、2024年で50周年を迎えました。
現在は世界46ヵ国に240の拠点を構え、以下のような製品の製造・販売をしています。
- センサー
- 測定器
- 画像処理機器
- 制御・計測機器
- 研究・開発用解析機器
こうした製品は、自動車メーカーや半導体メーカー、食品会社などに販売されています。
一般消費者向けの製品は、扱っていません。
そのため、「社名しか知らない」「何をしている会社か分からない」という人がいるのも当然なのです。
従業員は約1万人、平均年収は2000万円超
続いて、キーエンスで働く人々について見てみましょう。
従業員数(※1) | 3,042名 |
社員の平均年齢(※2) | 35.8歳 |
平均勤続年数(※2) | 12.1年 |
直近5年間の離職率(※2) | 3~5% |
平均年収(※3) | 2,067万円 |
※1:IR BANK「キーエンス」(2023年3月時点)
※2:リクナビ「株式会社キーエンスの採用情報(初任給/従業員/福利厚生)」(2023年3月時点)
※3:日本経済新聞「キーエンス、平均年収2067万円 3年連続2000万円超え」(2024年3月時点)
キーエンスは複数の関連会社・子会社を抱えていますが、単体で見ると3,000名ほどの人々が働いています。
同程度の従業員数を擁する企業としては、「任天堂」や「オリンパス」といった企業があります。
キーエンスは、国内でも比較的規模の大きい企業だと考えてよいでしょう。
加えて年に4回の賞与、毎年のゴールデンウィーク前に支給されるリフレッシュ手当など、一般的な企業と比較するとさまざまな手当が支給される点も特徴です。
製造業界ではトップクラスの営業利益率
こうした高い収入額を実現できているのは、キーエンスが業界でも飛び抜けて高い利益率を誇ることにありそうです。
キーエンスの営業利益率は、51.9%(2024年度)でした。
製造業界全体の売上高営業利益率が3~5%であることを考えると、キーエンスは業界でも極めて多額の利益を出せているといえます。
理由はさまざま考えられますが、キーエンスの自社製品のほとんどが「世界初」または「業界初」であることが影響しているかもしれません。
独自性の高い製品を展開することで、高い付加価値と競争優位性を確保していると考えられます。
そしてもう1つ、販売管理費を最小限に抑えられていることも特筆すべき点です。
販売管理費は、広告宣伝費や交際費など、企業の販売活動にかかる経費を指します。
キーエンスは全社員が日々のあらゆる業務を効率化することでこの販売管理費を少なくし、利益を減らさないよう努めてもいるのです。
合理化を追求したキーエンス流の働き方には、一般的な企業で働く人々から見れば信じられないようなルールや習慣もあります。
どういった働き方がされているのか、次の章から詳しく解説します。
キーエンスの“仕事の流儀”
キーエンスが高い収益を上げている背景には、独特な仕事への姿勢もありそうです。特に有名なものが、6つあります。
- 「アポは最低1日5件、電話は30件」の目標設定
- 接待・残業・持ち帰り仕事をしないルール
- 代理店を介さない直接営業
- ニーズの「裏の裏」を探る姿勢
- 商談から5分以内に書く「外報」を活用した情報共有
- 決して嘘をつかず「正直」でいること
こうした他社とは大きく異なるその取り組み方が会社の業績を上げ、高い営業利益率、そして平均年収にも結びついているようです。
それぞれについて、詳しく解説します。
「アポは最低1日5件、電話は30件」の目標設定
キーエンスの営業マンは、アポが1日5件以上入らないと外出が許されないと言われています。
たとえ4件のアポが入っていたとしても、5件に満たなければキャンセルしなければならないとか。
これは電話も同様で、テレアポは1日30件が最低ライン。
社内で過ごす日は1日3~4時間を費やし、電話を片っ端からかけるそうです。
商談から5分以内に書く「外報」を活用した情報共有
キーエンスの営業マンは、商談後に即座に記入する「外報」も大切にしています。
「外報」とは、「外出報告書」のこと。訪問の目的や顧客への訴求内容などを、商談から5分以内に記入します。
外報は上司に共有され、ネクストアクションを考える際の参考にするとのこと。
前述の通り、キーエンスの営業マンは1日最低5件のアポをこなしています。
そう思うと、この外報を書くだけでも精一杯になってしまいそうです。
しかし現場で感じたことを即座に言語化し、次につなげる姿勢を大切にしているところに、キーエンスの情報共有に対する徹底した姿勢が現れています。
この習慣が個々の営業マンが得た経験を組織全体の知恵に変え、日ごろの業務に生かされているのでしょう。
接待・残業・持ち帰り仕事をしないルール
キーエンスでは、顧客を接待することは禁じられているそうです。
代わりに重視しているのが、客先を訪ね、現場でヒアリングして提案すること。
顧客と対等な立場で接し、提案型の営業で受注することが重要だとされているためです。
原則として残業や持ち帰り仕事も認められておらず、就業時間内に全ての仕事を終わらせなければならないとか。
前述の「アポは最低1日5件、電話は30件」というルールも踏まえると、1日はかなり濃密なスケジュールになりそうです。
例えば、キーエンスの営業マンは以下のようなスケジュールで日々働いているとか。
時間帯 | 社内で過ごす日の例(週に2日ほど) | 社外で過ごす日の例(週に3日ほど) |
8時~12時 | テレアポ顧客のフォロー | 客先訪問(2~3件) |
12時~13時 | 昼休み | 昼休み |
13時~17時 | テレアポ顧客のフォロー会議Web商談 | 客先訪問(3~4件) |
17時~19時 | テレアポリストの作成ミーティングロールプレイング外出の準備 | 外報の社内共有メール返信翌日の準備 |
代理店を介さない直接営業
キーエンスには、大手企業なら必ずと言っていいほどある「代理店」が存在しません。
大手企業や国内外に展開する企業の場合、通常は特定の会社と契約を結び、商品を代わりに販売してもらったり、顧客との窓口になってもらったりします。
しかしキーエンスの場合は営業マンが自ら客先に行き、商品を売り込んだり納品したりするといいます。
そして、顧客との会話を通じてまた新たなニーズを探り、新しい提案につなげているそうです。
これは創業当初から変わらない伝統です。
また、この体制を整えることで、キーエンスは「全商品当日出荷」を実現しています。
顧客からの問い合わせや相談が直接届く体制にすることで、迅速な対応を可能にしているのです。
日ごろから業界研究や自社製品についての勉強を行い、販売を想定したロールプレイングも頻繁に実施。
扱う商品の魅力を、いつでも顧客に伝えられるよう日々努力しています。
ニーズの「裏の裏」を探る姿勢
顧客が「欲しい」と思ったものは作らないのも、キーエンス流。
そのニーズをさらに深掘りし、全く新しい商品の開発・提案につなげています。
根本にあるのは、「顧客が『欲しい』と思ったものには付加価値が付けられない」という、キーエンスの考え方。
顧客が欲しいと思う前にアイデアを出して製品化するからこそ、自社の商品の付加価値が高まるそうです。
しかし、そうした「隠れたニーズ」を探るのは簡単なことではないはず。
それゆえキーエンスの従業員は小まめに客先を訪れたり、勉強を重ねたりして、アイデアの種を探しているのでしょう。
決して嘘をつかず「正直」でいること
キーエンスで最も嫌われるのは、アポを入れられないことや売上を伸ばせないことではなく、「嘘をつくこと」。
キーエンスではチームで業績を上げることが重視されているため、不明点や困りごと、情報などはとにかく共有する姿勢が求められます。
もし虚偽の報告をしていた場合は、厳しく罰せられることがあるのだとか。
内部監査担当の社員がおり、抜き打ちで現場を見て回っているとも言われています。
キーエンスの独特な社風が作られた背景は?
現在のような社風が出来上がったのは、とことん業務の効率化を追求したからかもしれません。
キーエンスには、営業マンのほか、開発チームや販売促進チームなど複数のチームがあります。
そして、モノを売るまでに必要な各業務をチームで分担しているのだとか。
つまり、キーエンスという会社が一丸となって、製品を売るためのシステムを構築しているということです。
たとえば営業マンが客先で製品についての問い合わせや、業務上の相談が寄せられた場合、キーエンス社内では以下のような対応をしているといいます。
営業マンが顧客から問い合わせや相談を受ける ↓ 問い合わせや相談の内容を社内で共有する ↓ 販売促進チームがその内容を元に、資料やデモ機などを営業マンに送付する ↓ それを手に営業マンが顧客の元に行く ↓ 成約につなげる |
一般的な企業の営業マンの場合、営業活動も行いつつ、顧客対応や資料作成などまでほぼ全てを1人で行わなければなりません。
しかしキーエンスでは、そうした業務を社内全体で分担しているとのこと。
その結果、スピーディーな対応や的確なセールスが実現できているのではないでしょうか。
キーエンスに関するQ&A
キーエンスの社内体制や風土などは分かったものの、「本当にそんな会社や働き方が成り立つのか?」と感じる人もまだまだ居るはず。
そこでここでは、キーエンス志望者が疑問に思いやすい以下の点についても調べてみました。
- キーエンスは「ヤバい会社」ではありませんか?
- 本当にキーエンスの給与は高いのですか?
- 退社した人は、その後どういうキャリアに進んでいますか?
キーエンスは「ヤバい会社」ではありませんか?
キーエンスの評判を検索してみると、「スケジュールが厳密に管理されているブラック企業だ」とか「ヤバい会社だ」といったものが目立ちます。
なかには、「20代で年収1,000万円を超え、30代で家が建ち、40代で墓が建つ」という評判も。
「高収入だけれど、その分激務である」といったイメージを持っている人も多いでしょう。
しかし、前述したとおりキーエンスでは、業務を効率化するためのさまざまな工夫がされています。
そのどれもが徹底的に突き詰められているために、ブラック企業だ、ヤバい会社だという評判につながっているのかもしれません。
本当にキーエンスの給与は高いのですか?
唯一、評判通りだと言えそうなのは年収面です。
「平均年収2,000万円超」というのは本当で、「入社1年目で高級外車を買った」という人もいるとか。
ちなみにキーエンスの給与形態は年功序列ではなく、「クラス制」が導入されているとのこと。
クラス制とは、給与の金額が6~7段階ほどに分かれていて、結果を出せればクラスが上がって給与も上がるという体系だそうです。
つまり、若くても成績が良ければクラスが上がって高収入が見込めるということ。
反対に、社歴が長くても結果がうまく出せていなければ、思うように収入が上がらないこともあるかもしれません。
退社した人は、その後どういうキャリアに進んでいますか?
激務のイメージがあるキーエンスですが、離職率は意外にも低め。
そして必ずしもネガティブな理由から退社する人ばかりではなく、退社後に自身の会社を立ち上げている人も目立ちます。
例えば、キーエンス出身者が立ち上げた事業には以下のようなものがあります。
- 経営コンサルティング
- 営業ツールの開発・販売
- 学習塾
- ライブ配信事業
キーエンス時代の知識や経験が活きるものもあれば、全く異なる業界に進出する人もおり、バラエティに富んでいます。
このことから、キーエンスで培った知識やスキル・経験などは、どのような業種・業界でも役に立つといえそうです。
キーエンスに入社する方法と就職難易度
キーエンスに入ろうと思った場合、方法としては大きく以下の3つがあります。
- 新卒で入社する
- 中途採用で入社する
- インターンシップ生として短期間だけ入る
それぞれについて解説します。
新卒で入社する
オーソドックスな方法は、新卒で入社することでしょう。
2026年度は、以下の3職種で新卒者が募集されています。
職種 | 業務内容 |
ビジネス職 | いわゆる営業職。自分の担当エリアを持ち、エリア内の顧客に向けた戦略立案から提案・販売、アフターフォローなどさまざまな業務を担当する。 |
エンジニア職 | いわゆる開発職。商品開発職、生産技術、コンサルティングエンジニア、ICTの4つに分けられている。理系学部出身者のみが出願できる。 |
S職 | いわゆる事務職。営業事務や人事、総務、経理など、他の職種をサポートする仕事を担当する。 |
キーエンスの新卒の採用人数は明示されてはいませんが、例年200~300人ほどと言われています。
また倍率も非常に高く、50倍や80倍、200倍とも言われています。
新卒入社の場合、出願の条件や「求める人物像」などは一切定められていません。
全学部・学科の人が出願可能で、国籍も不問となっています。
これはキーエンス側が「採用活動において最も重要なのは学生と企業とのマッチング」と考えているためといえそうです。
また、全職種の併願も可能です。
「選考過程では電気・情報・機械など専門分野の知識を問うものはありません。」と明記されています。
このように門戸が開かれていることから応募が重なり、倍率が高くなっているといえそうです。
よって、新卒で入社するには、事前にかなりの努力や工夫が必要になるでしょう。
中途採用で入社する
キーエンスでは、中途採用も積極的に行っています。
2024年8月現在、ソフトウェア開発やAIエンジニア、法務、人事など10以上の業種が全国で募集されています。
中途採用の場合はある程度の知識や経験を求める募集もありますが、なかには必須条件を「社内外でのコミュニケーション能力」「その業務に関する素養」のみとしているものもあるなど、業種によってさまざまです。
また、募集人数も新卒採用同様に非公開となっています。
新卒に比べると求められるものが多くなるため応募のハードルは高くなりますが、その分ライバルは減るでしょう。
新卒でキーエンスに入社するのが難しいと感じているのであれば、他の企業で経験を積んでから転職するのも1つの手かもしれません。
インターンシップ生として短期間だけ入る方法も
キーエンスでは、ビジネス職・エンジニア職・S職(事務領域のスペシャリスト)それぞれの職種を体感できるインターンシップも、年に数回実施しています。
インターンシップもかなり人気が高く参加が難しいといわれていますが、参加者からは「1日のイベントとは思えないほど密度が濃い内容だった」「時間があっという間に過ぎた」といった感想も出ているとか。
キーエンスの社風や雰囲気を体感できるため、参加する意義はありそうです。
遠方に住んでいる人は、Web上で開催されているインターンシップへの参加を検討してはいかがでしょうか。
3つの職種のうちビジネス職と、知財職といわれる職種のインターンシップのみ、Webでの開催も予定されています。
キーエンス流の仕事術を取り入れてキャリアに生かそう
数々のインパクトあるエピソードで知られるキーエンスですが、その実体は社員一丸となって売上アップを追求する、熱意のある企業であるといえそうです。
特に、以下のような姿勢や意識を取り入れることで、皆さんのキャリアも大きく変わるかもしれません。
- 仕事に取り組む際は、明確な目標を設定する
- 知識を日々アップデートし、いざという時すぐに対応できるよう準備しておく
- 時には他人と協力し、業務効率化をはかる
キーエンスに入りたいと思ったときはもちろん、自分のキャリアや将来に迷うときも、今回の記事を参考にしてみてください。
<参考文献>
天野眞也(2022)『シン・営業力』(クロスメディア・パブリッシング)
西岡杏(2022)『キーエンス解剖 最強企業のメカニズム』(日経BP)